第10歩:有言実行の女。(金城 千鶴の場合)
解った事が一つだけある。
いや、細かく分類すれば何と発見の多い一日だった事か・・・。
ただカクジツに一つ挙げれば、彼の前で私は普通ではいられないという事だ。
彼を前にすると何を話していいのか解らなくなる。
そもそも話題すらないと言ったらそれまでだが、それでも私は彼の前では平常心ではいられない。
でも、だからといって、一緒にいる事が苦痛というわけでは決してない。
『どうかしたか?』
そう問う彼の言葉は私に気を遣っているという事なわけで、それは彼が私を気にかけている。
ひいては常に見ている、見られているというわけであり・・・そう考えると、身体が熱くなってくる。
「近くに・・・もっと近くにいて欲しい。」
もっと近くに、私の傍に・・・。
私を見て欲しい。
「あんま寄っても歩きづらくないか?」
いいんだ・・・君になら・・・。
「私の全部を見せてもいいくらいだ。」
「あぇ、えぇと・・・なんつーか、時折思考が飛んでないか?発言の内容が突飛になってる気が・・・。」
私自身、どこまで思考内でおさまって、どこまでが発言しているのか解らなくなる時もある・・・それもこれも・・・。
「全部、君のせいだ。」 「オレかよ?!」
だって、君の前では普通でいられないから。
「やはり、先人はよく言ったものだな。」
「今度は何をだ?」
「惚れた者の弱み。」
「だから、前後が繋がってねぇよ。」
おかしいな、今のは私の中では繋がっていたのだけど?
「なんか、こぅ、もっと理路整然になんないの?何時もそんなだったか?」
だから、君の前だから。
「全部、君のせいだ。」
私は悪くない。
こんなにしてしまったのは君だ。
「一体何が?」
「全部、君のせいだ。」
全部・・・君の・・・。
「どうして私はこんなにも君を愛してしまったんだろうな。」
「それはこっちが聞きたい。つーか、ソレ、言ってて恥ずかしくなんない?」
ソレ?
どれの事だろう?
「一体、何の事?」
「だから、その・・・。」
言葉を濁す彼。
なんだか可愛い。
男性に可愛いというのは褒め言葉にならないのは重々承知しているが、そう思ってしまうのは、やはり私が彼を他の男性と同列に見れていないという事なのだろう。
「その、愛しているとかなんとかっての。」
「あ?あぁ・・・。」
なんだ、そんな事か。
「冷静に考察すると、自分の思っている感情等とか、それらを総じて的確に表現するとしたら・・・。」
再考するとしても・・・。
「やはり、"愛している"というのが適切だ。」
「あぁ、そうですかぃ。」
「想っている事を正直に述べて何が悪い?」
「悪くはないけど・・・。」
思った事を正直に言って何が悪いというのだろう?
別段に、それで誰に迷惑をかけたという認識はない。
嘘をついているならまだし・・・も・・・?
「ま、まさか・・・。」
「ん?」
いや、そんなはずはない。
「き、君は私が嘘をついていると、そう思っているのか?!」
「はぃ?」
なんという事だ!!
確かに信じていなければ、私の言っている事が伝わらないのは道理だ。
どうりで彼が訝しげに私を見ていると思ったんだ!
しかし、私の言っている事はそんなに信用度がないのか?
「成程。つまり、有言実行しろという事だな?」
「有言実行?」
ほら、またそうやって訝しげな表情で私を見る。
「そうか。私の言っている事が信じられるように態度で表せばいいわけだ。」
「なんだか、嫌な予感しかしない気がするんだが・・・。」
「いいだろう!私がどれ程に君を愛しているか見せよう!」
私は両手を大きく広げる。
「・・・・・・えぇと、どゆコト?」
「さぁ、好きな所に触れるがいい。なんならば、私から抱きしめても構わない。」
「だからなんでそうなる!」
む?
「君になら、その、何をされても構わないくらいに愛してるという事を態度で表してみたんだが・・・。」
「・・・往来の皆様の迷惑になるからやめような。」