伝説のおいちゃん
変な話が浮かんだので書いてみたらすごく気持ち悪くなった…
勇者に夢を持つ人は読まないでください
ただの気持ち悪いおいちゃんの短編です。
大国ガルヴァントには昔から一つの伝説がある。
それは、この地で危機に陥った時、伝説の「あの人」が現れるという伝説。
伝説の伝説ってなんだとなんだと思うかもしれないが、まぁ、「あの人」が現れるといういわば都市伝説のようなものだ。(やはり伝説の連発)
「あの人」
そう、彼はかつて魔王を倒し、世界を救ったとも、かつて人々を苦しめる魔獣に一人で打ち勝ったとも言われる幻の人。
その名も
伝説のおいちゃん
馬鹿にしてるのか!と殴り込みにあいそうな話ではあるが、本人が言うのだから間違いない。
そして今日も、彼は人々の危機に駆けつけるのだ。
「いや! 放してください!」
「嫌よ嫌よもなんとやら~」
学生の身で酒場のアルバイトは危険だと周りの友人達に何度も止められたが、生活していくにはお金がいる。ましてや自分の家は辺境の農村にあるほぼ自給自足で生きてきた家だ。お金にはほとんど縁がない。
それでもわがままを言って何とか都会の学び舎に入ったのだ。そこからの生活費や学費は自分で稼がねばならず、危険でも割のいいバイトを選ぶのは仕方がないことだった。
これまで酒場でからまれたりお尻を触られたりということは何度もあった。しかし、後をつけられ、囲まれたのは初めてだった。
腕を掴まれ、叫ぶが、この辺りは治安もあまり良くない裏通り、女の叫び声も日常茶飯事で誰も答えてくれない。
ミシャは必至に腕を振り、掴まれた腕をほどこうとするが、やはりそこは男女の差、力では敵わない。
青ざめ、カタカタと震える子羊を追い詰めるように4人の男が包囲を狭め、一人がミシャの背後に回った。
「ん~、いい匂い」
一つに纏めていた波打つ赤毛が解かれ、毛束を掴んで臭いをかがれる。
ぞっとしてミシャは髪を掴み、男の手から引き抜き、体をずらす。だが、そこでも別の男が背後に回り、首筋をぺろりと舐めた。
「やっ!」
気持ち悪さに悲鳴を上げれば、男達が嬉しそうに笑う。
「や、だってよ。かわい~ねぇ~」
「ちょっと気になってたんだよね、そばかす赤毛ちゃん」
「名前教えてよ」
「俺らがいいこと教えてあげるからさあ」
背中に抱き着かれ、腕をとられ、胸元に手をかけられる。最後の一人は腰を落とし、スカートの中へと手を伸ばして、最悪の未来にミシャの心臓は壊れそうだった。
「君たちぃ~、女の子をいじめちゃあイカンなぁ」
突然響いたのは男達に勝るとも劣らぬような軽薄そうな声。
男達は一瞬手を止め、声のする方を一斉に睨んだ。
「なんだ?おっさん」
目の前の男が体をずらしたことによって見えたのは、どこにでもいるような、前髪がかなり後退した、丸顔、狸腹、身長低めのちょっと残念な見た目のおじさん。
「た、たす、たすけ」
藁にもすがる思いで、涙をこぼしながら掠れる声で助けを求めれば、おじさんはニヤァァと笑みを浮かべた。
「ひっ」
ミシャは思わず悲鳴を上げ、男達はあまりの不気味さにわずかに後退した。
黄色い歯をむき出しにしたその笑みはあまりにも不気味で、恐怖を感じさせたのだ。
「きみたちぃ」
馬鹿にしている様な呼び方だが、なぜかその場にいる全員が得体のしれない恐怖の生物に呼ばれたかのように動けない。
「飴ちゃん食べるぅ?」
そういっておじさんが取り出したのは本当に飴玉4つ。
男達はなぜかホッとしてから我に返った。
「頭がおかしいのか酔っ払いかはしらねぇがさっさと失せろ!」
男はおじさんの飴を差し出す手を払いのけ、ミシャは悲鳴を上げた。
やはり自分は助からないのだとがたがた震えながらおじさんを見れば、彼は落ちた飴を律儀に拾い集め、腰をトントン叩いて「どっこいしょ」と声を出し、体を起こした。
「最近の若者はいかんよねぇ、素直さがなくってぇ。おとなし~く『おいちゃんありがとう~』て言ってくれれば許してあげたのにぃ」
ぶつぶつ言うおじさんに男達はお楽しみを邪魔されて苛立ち、攻撃に移ろうと一歩踏み出した。
ドッ
「きゃあ!」
鈍い音と共にミシャの目の前にいた男が吹き飛び、そばにあったゴミバケツの中へと突っ込む。
「はぁ~、やれやれ、ほんとに躾がなってないなぁ。おいちゃん悲しいよ」
仲間がやられたと気が付いた他の三人がミシャを放り出し、ミシャはその場に尻餅をつく。
男達は一斉におじさんに飛び掛かり、ミシャは恐怖でギュッと目を瞑った。
ドカッ! ゴス! ドコ!
ガラガラとあちこちで物の崩れる音がして、しばらく恐怖に震えていたミシャがそろそろと目を開けると、目の前にはおじさんのどアップが!
「いやぁぁぁぁ!」
思わず殴ってしまってから、ミシャに襲いかかっていた男達がそれぞれゴミ箱やら壁やらにぶつかって倒れているのに気が付いた。
(助けてくれたの?)
おじさんは殴られてしばらく地面でぴくぴくと震えた後、鼻血を噴いたまま立ち上がり、ぐっと親指を立てて突き出した。
「ナイスパンチ」
ここで、鼻血拭けよ、と思うのはミシャだけではないはずだ。
「あ、あの、ありがとうございました」
ミシャは立ち上がるとお礼を言い、おじさんは鼻血をグイと袖で拭った後、再び飴を一粒取り出してミシャに差し出した。(汚い…)
「おいちゃん、これでも昔は勇者だったから~、可愛い子の味方だよぅ」
そういうと、もう一度お礼を言って飴を手に取るミシャにウインクすると、ふっと彼女の前から姿を消した。
その後、その話を友人に話したミシャは、伝説のおいちゃんの伝説を知った。
後日談―――
その日も悲鳴を聞いて駆け付けたおいちゃんは、魔物に襲われている被害者を救って駆け寄り、その被害者を見て呟いたという。
「チッ、男かよ」
と…。
おいちゃん人助けはするけど男女差別します。サイテーです。