5、『決死の潜入ルポ』の巻
わたくし、先日ですね、先ごろ日本で一番話題になったとある場所へ行ってきたんですよ。
い、いやぁ、「それはどこか?」だなんて聞かないでください。そんな事をうっかり喋ってしまったら、わたくしの命に関わりますもので……。まあ、こちらを読んでいる方々は、それなりに聡明でいらっしゃるので、それなりにお察し下さい。
まあ、一言申すなら、ガラスバッチなんかが必要なとある場所です、はい……。
で、ですね。
わたくし、その場所で世にも恐ろしい体験をしてしまったのですよ。
それはですね、わたくしがその場所に足を踏み入れて数分後……
親子と見られる黒い牛が数頭こっちに寄ってきたんですよ。
その中でも少し体の大きな牛が、わたくしを食い入るようににらみ付けて、
「ハッパフミフミ」
って言ったんですよ。
わたくしはとても恐ろしくなって、一目散に駆け足で逃げたんでんすね。
そうしたら、そこがどこか分からなくなってしまったんですよ。
しかし何ですな。人間というものは、これはヤバイ、これはヤバイと思えば思うほど焦ってしまって、冷静さを欠いてしまうものなんですな。
とうとう、わたくしは山の中へと迷い込んでしまったんですよ。
もう、その山の中は何もかもが見渡す限りの草と木で覆われていて、どこが東でどこが西なのかちっとも分からない状態になりましてな。
仕方が無いから、山の上に登れば見晴らしも良くなるだろうと、泥だらけの草だらけになりながら前に進んだんですな。
確かにその小高い頂上にまでたどり着くと、辺り一体が見渡せてそれはそれで良かったのですが、目の前に変な物が飛び込んできたんですな。
それはハッキリとは確認出来ないのですが、大ーきな三角形をした、それこそあの砂漠に建造されたピラミッドのような物なんです。
「なん……だと……、この日本に、あんな巨大な建造物が……」
わたくしは、意外な場所で意外な物に出くわしてしまったことにおののいていると、
「なんだぁ、兄ちゃん。あんだ、こなどごで何やってんだぁ?」
突然背後から声を掛けられました。声を掛けてきたのは、真っ黒に日焼けした小柄な老人です。いかにも農夫であるかのように、片手にクワを担いだりなんかしていました。
わたくしは非常にびっくりしたので、
「ひっ、いや、あの……わたくしはただの、通りすがりの刀鍛冶です」
と正直に答えました。
「そっがぁ、気をづけろよぉ。こごらへんは、おっがねぇとごろだがらなぁ」
「あ、あのう、ちょっとお伺いしても宜しいでしょうか?」
「なんだぁ?」
「あの、目の前に見える、あの三角の巨大な建物は何なのですか?」
「ああ、あれはだな、聖帝十字りょ……ウッ!!」
「ご、ご老体っ!! ご老体っ!!」
なんと、その老人の背中には、家の柱ほどの大きさもある巨大な槍が刺さっていました。老人はわたくしに、『せいていじゅうじ』ナンタラ……とか言う謎の言葉を残したまま絶命してしまったのです。
当たり前ですが、わたくしは怖くなってその場を駆け足で逃げ出しました。一目散に逃げ出しました。
どこをどう走ったのかは覚えてはいませんが、途中、全身に白い服を纏った大勢の人影が、そのピラミッド方向に向かっていたのを見たような気がします。
あれが噂に聞く、『ラージノーズ』ナンタラ、というものなのでせうか?
いやあ、本当に恐ろしい体験でした。
いったい、あの巨大なピラミッドは何だったのでせうね?
信じるか、信じないかは、裸の王様である貴方の役目です。(うそ)