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Proving Ground  ~喪失と融合の世界~  作者: 時雨 彰弘
序章:開拓地(フロンティア)と呼ばれる世界で
8/9

第8話「流れゆくは平穏」

更新が非常に、あり得ないくらいに遅いですが、作者が時間を割けていないだけです。でも5ヶ月はなかったなぁ……orz

===============================<セラside>


「なんで、こんなことになっているんだ?」

 俺の昨日の行動をまとめてみる。

 宿に戻って、最低限しか持ち出していなかった荷物を全て持ち、レムクランの屋敷に戻ってきた。最低限の荷物と言っても、本当に着替えぐらいしかないのだが。とにかく、戻った後に特にこれと言った出来事もなく、いや、もしかしたらミルが泣きそうな顔だったので何かあったかもしれないが、俺は急遽用意されたと思われる客室で一晩平穏に過ごしていた。そのはずだった。

「ふぁい? せら? おはよぅ〜」

「いや、だからなんで自然体でミルが来ているんだよ!? ってか、どうしてここに来た!?」

 俺が朝になって起きてしばらくして、何故か、ミルが部屋に入って来たのだ。一体何があったのか俺が聞きたい。

「せら、あったかい〜」

 時期として、春。レヴァは四季があり、気候の変化等色々あるかもしれないが、さすがに、朝にこの行為はないだろう。確かに今は肌寒いとは思うが。

「朝から抱きつくなって。一体どういうつもりだよ?」

「せらがあったかいのがわるいの〜」

 どう見てもミルは寝ぼけている。寝ぼけているのに自分の部屋から離れたこの客室にネグリジェで来るのがそもそもありえないのではないかと思うが、そんなことより、この事態をなんとかすることが大事だ。離そうにも、剥がれない。

「一体、なんでこんな……まさか」

 ふと思って、辺りの気配を探ってみる。明らかに、こちらを観察している張本人達の気配があった。この状況だから慌てすぎて最初にそこまで勘ぐってなかった。

「せら〜♪」

「おい、いい加減ちゃんと起きろ、そして現状を把握しろっ!!」

 俺の叫びは当事者以外誰にも届かなかった。そして、それが良かったのか悪かったのか、その後のこともその他には知られずに済んだことになる。


***


「私、なんであんなこと……」

「ミルはそんなこと考えなくていい。どちらかと言えば、そこの二人が問題なんだ」

 俺達は朝を食堂で適当に取る。使用人達も混ぜて適当に取るのがいつものことらしく、俺はミルとリアレス、セレスティアと一緒に朝食を食べていた。

「だってさ、半分寝てるお姉ちゃんを連れて行ったらどうなるかな、って思って」

「そうです、昨日も言いましたがミルさんには積極性が足りません」

 リアレス、セレスティアが口々に言う。ちなみに、セレスティアは昨日のポニーテールのメイドである。本名セレスティア・デイヴィス。名前で呼んでいるのは同じ名字の使用人がいるからだ。密かに家族ぐるみなのかとしみじみ思ったりもした。年齢はリアレスと同じく十四だとか。にしても、こうしてみると、三人とも姉妹に見えるくらい仲が良い。全員容姿いいからなおのこと。

「セラにあんなこと……なんで、あんなことしちゃったかな」

 ミルはと言えば明らかに落ち込んでいた。仕方ないと言えば仕方ないだろう。

「好きでもない男にあんな羞恥心もないような事したらショックだろうな。でも、学園でそんな顔していたら慰めようとする男が絶えなくなるから、それはそれでまずいんじゃないのか?」

「セラ、その事実をはっきり言わないで……」

 ミルの事情は昨日で大体分かっていた。どうやら婚約候補者が正式な婚約をする方法は接吻、つまりはキスしたらいいわけで、ミルが狙われているというのはその類で誘拐されたりすることを恐れていたらしい。無論、襲うとかでは意味はなく、自発的にやることでマーキングのようなものが出来るらしい。魔獣に襲われた際に武器も持たずにいたのは、そこそこ魔法を使えるため、街中では大丈夫と思っていたらしい。さすがに、魔獣に襲われたのはその線ではなく、ただの偶然だと俺は思うけどな。

「うーん、でも、ヴレイヴスさんはもう姉さんと婚約できちゃうんですよね」

「すまないが、俺はその事実には目を瞑りたい」

「でも、もう目撃者もいることですし」

 そう、察してくれた人は正しい。実は俺、寝ぼけたミルにキスされてしまったのだ。役得かもしれないが、頭が痛くなる。

 ちなみに目撃者はこの二人。仕掛けたのも、この二人。なんというか、嵌められたということだ。

「リア、セレス。お願い、その事実は秘密にしてて」

「「えー」」

「まぁ、犬に噛まれたことにでもしておけ。俺は婚約なんてものに興味ないし、ミルの意志を潰すようなことはしない。学園で悪い虫を駆除するなんて役目は請け負っていないからな」

「セラは、セラは私に興味がないの!?」

 いやまて、何故怒る? ここはほっとするべきじゃないのか?

「いや、そういう意味じゃなくて。俺は別に婚約にこだわる気が無いって言っているんだ。ミルが可愛いのは否定しないし、あれはある意味至福でもあるが、それとこれとは話が別だ」

「セラは、変態ね……」

「なぁ、怒っていいか? どう反応しても俺が悪者になっているぞ」

 なんともまぁ、微笑ましい朝だな、うん。現実逃避がしたくなってきたのは秘密だ。

「はてさて、ヴレイヴスさんはお姉ちゃんのことどう思っているのですかね?」

 リアレスが話題を振ってくる、かと思ったが、明らかにループしそうな予感がしてきた。

「クラスメイトで資産家、かつ俺の護衛対象である超絶美少女」

「やけにあっさり言いますね」

 セレスティアは呆れていた。とはいえ、事実なのだから仕方ないだろう。

「でもでも、昨日魔獣の群れからお姉ちゃんを助けたわけですよね? なんとも思ってないのに」

「死なれたら夢見悪くなるだろう、たぶん。それに救える命は救うべきだと思ってるよ、俺は」

「セラはやっぱり、卑怯」

 ミルが拗ねていた。だから、なんでだ?

「でも、その助け方って、純粋な乙女を堕とすためのやり方とかそんなのだったりします?」

「いやまて、誰が好き好んでわざわざ何度も資産家を魔獣から守るなんてことやるんだよ? 俺はリリィ達の時と同じようにしただけだ」

 そう、何度も資産家を狙って助ける気なんてない。偶然の産物でしかない。それに、俺は同じことをしたリリィには追いかけられるだけの立場だ。だからミルに恋心なんて出来ているとは到底思えない。

「「「リリィ?」」」

 三人ともハモっていた。いや、そこまで驚くことか? 確かに、事実だけなら驚くべきところだが。

「ああ。三年くらい前に魔獣に襲われたセルレイ家を助けたときと同じだったってだけだ。誰か、まで言わなくて良いだろ?」

「ちょっと、セラってあの・・リリィと知り合いなわけ?」

 ミルの雰囲気には少しばかり怒気がはらまれているような気がする。

「ああ、二年ほどセルレイ家に世話になったからな。毎日追いかけ回されたから大変だった」

 そうだ、本当に二年間追いかけられた記憶しかない。理由など見当もつかない。そしてなぜ怒っているのかも分からない。

「むむ、これはお姉ちゃんに強敵がいるかもしれないね」

「ミルさん、急がないと大変ですよ?」

 何か二人が意味の分からないことを言っている。なんなんだ、こいつらは?

「だから、違うってば!!」

 朝食を食べ終えたミルが顔を赤くして否定した。

「それだけ元気があれば、もう大丈夫だな」

 俺はと言えば、食べ終えた食器を片付けるため、立ち上がって、ついでにミルの頭をなでていた。

「!?」

 ミルは声にならない声を上げていた。

「元気が出たなら、さっさと用意して学園行くぞ。別々が良いなら先に行くが、どうする?」

「一緒に行くに決まってるじゃない!!」

 すごく力強く肯定された。俺が頭をなでた女性って大概みんなこうなるから不思議だよな。ま、元気になってくれたからいいか。

「それじゃ、用意が出来たら玄関で」

 そして、俺は一足先に客室へ戻り、学園へ行く準備をした。



===============================<ミルフィリアside>



「ヴレイヴスさん、大胆ですね」

 セラがいなくなってから最初に言ったのはセレスだった。

「うん、ここまで凄いとは思ってなかったよ」

 リアもそれに同意していた。

「……セラはきっと、そんな目で見てないわ」

 私は確信していた。きっと、セラはそんなつもりが一切ないということを。でも、あのセラは魔獣から守ってくれた時みたいに優しかった。

「なら、どうするの、お姉ちゃん?」

 ほしいものを手に入れる努力をする。今までの私でもっともほしいもの。それは何かと考えていた。

「ミルさんはきっと、わかっていると思いますよ?」

 私は、セラをどう思っているのだろう? たった一日で、寝ぼけていたとはいえ、キスをしてしまった私。どうして、そんなことをしたのか考えるまでもなかったのかもしれない。

「……二人の言う通り、私、セラが好きなのかもしれないわ」

 ここまでくると、惚れてしまったとしか考えられなかった。悔しいけれど、事実なのだ。

「だから、そう言ってるじゃない」

「では、どうされるのですか?」

「セラに私を好きになってもらう!!」

 そう、せっかくなら両思いの方が良いに決まっている。そこに迷う余地はない。

「がんばって、お姉ちゃん!」

「応援しますね〜」

 二人から後押しをもらい、私は食器を片付け、セラと一緒に学園に行くために、用意を取りに行った。


***


玄関には、腕を組んで待っているセラが居た。

「来たか、それじゃ、行くぞ」

 セラは私が来るのを見ると、玄関から出て行く。

「ちょっと、待ってよ、セラ!」

 私は慌ててそれに続く。

 学園、と言われてまず考えることはやはり、制服なのではないだろうか? そう、戦闘を考慮した制服というものが昨日の夜、自宅に届けられるのだ。もっとも、セラに関してはその事実を知らず、かつ自宅の登録は出来なかったため、こちらが届けるという形を取った。これは最低限の罪滅ぼしだったという理由もある。

 セラと私はその新品の制服に袖を通し、学園へと向かう。なんか、セラに関しては昨日の私服と似たような格好な気もしなくもないけど、似合ってるからいいかな。

 話は変わるけれど、私の家はこの街のもっとも高いところにある。それは同時に学園までの道は下り坂ということ。とはいえ、そんなことはどうでもよくて、重要なのは資産家の家までわざわざ来る人間はそうはいないことが重要。つまり、ある程度まではセラと私は二人だけと言うことになる。よく考えれば、チャンスではないだろうか?

「あの、セラ、学園での生活のことなんだけどね、その……」

 うまく言い出せない。こう、自覚してしまったことで、はっきりと言えなくなってしまった。ただ「学園で一緒にいたい」って言うだけなのに。

「念のため言っておくが、俺の護衛は影からひっそりとやるから、堂々とかまいに来るなよ?」

「え、なんで?」

 けれど、その言葉を絞り出す前に否定の言葉をもらってしまった。

「何度も言うが、俺は大っぴらに実力を出す気なんて無い。だからだよ。護衛なんてやっていると知られてみろ、無駄にややこしくなるだけだろ」

「う、うん……」

「だから、学園では基本的に一人で行動してもらう。当然だが、門に入る前には別々で入ることになる」

「……そうね」

「昼は言った通り、俺は図書館に行く。っと、その前に昼を取らないといけないか。たぶん屋上でひっそりと取る」

「……うん」

 正直、落ち込む。せっかく一緒にいられるチャンスなのに、こうも拒絶されてしまってはショックでしかない。でも、セラにはセラの事情があることは分かっているので何とも言えない。そのことが悔しかった。

「ただ、友人としてなら拒否しない」

「うん。……って、え?」

 なにか、セラから意外な言葉が聞こえた。

「一応、クラスメイトだろ? 昨日の呼び出しも見られてしまった。なら、多少喋るくらい問題ないはずだ。資産家じゃなく、一人の友人としてなら話し相手になろう」

「本当に?」

「嘘ついてどうする? 大体、こんな可愛いミルに対して話さない男はたぶん、いないだろう」

「本当に友人としてならいいのね?」

「だからといって、常にいられると噂が立つからほどほどにしとけよ。本命探したいんだろ?」

「……セラがいるならいいもん」

 私は小さく、聞こえ無いくらい小さく呟く。

「なんか言ったか?」

 聞こえたのだろうか? セラが嫌そうな顔でこちらを見てくる。別に悪口じゃないってば!!

「ううん、何にも。」

「ならいいけど。俺の悪口を噂にするのは勘弁してくれよ」

 やっぱり、悪口と勘違いしていた。

「そんなのやらないわよ」

 そう、セラが私を見てくれるためにそんなことをしても損するだけだ。だからそんなことはしない。

「そうかい。それじゃ、さっさと学園に行こうか。俺は行き道で会った友人Aという扱いで」

「セラはセラでいいじゃない!!」

 セラは冗談半分に言っているが、絶対に半分は本気だ。どこまでも自分を下げていきそうな勢いでもある。

 とにかく、そんな会話をしながら学園へと向かっていた。


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