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Proving Ground  ~喪失と融合の世界~  作者: 時雨 彰弘
序章:開拓地(フロンティア)と呼ばれる世界で
6/9

第6話「資産家」

 遅くなりました、第6話です。

 ……学園の設定が難しいと思う今日この頃ですorz

 よく考えれば、何故私はセラにここまでこだわっているのだろう?



 初めて見つけたとき、身長170後半の背が高めの金髪としか思っていなかった。振り向かせたときの顔は密かに見せてもらった資料で見たままの金髪碧眼。こんなのが符術使いだと思っていなかったのも多少はある。

 私は自分の名を明かしたとき、一瞬でも何か番狂わせを期待したが、よりによって資産家当主に対する礼儀のような感じで私に挨拶してきたのだ。だから、私は面白くない、と思っていた。所詮、からかったら抵抗もせずに従う弱い者。必要なときだけ私に従う駒にしよう、そう思っていた。


 資産家として、その彼を連れて行き、私は私自身の目的のために彼を使おうとした。言葉遣いも普通にさせ、暇つぶしの道具にしようとすらした。けれど、そうするためにしたことは、逆に彼が反抗するきっかけとなってしまったらしい。

 その時は番狂わせが起こったことよりも、一切手の中に入らない、そんな屈辱が生まれていた。面白くない、と口から出たものの、実際には悔しかったのだ。

 話をしていて気付いたことは、私が彼を手懐けるなど不可能だと言うことだった。それに、彼は隠している強さがあることが分かったのだ。だから、私は無理にでも私の護衛という名目で彼を縛ろうと考えた。でも、それすら無理だった。


 魔獣と相対したとき、私は無理にでも逃げれば良かったのかもしれない。きっと彼は自分の戦う姿を見られたくなかっただろうから。

 けれど、彼はこんな私に優しく微笑んでいた。そして、魔獣から私を守ってくれたのだ。

 私にとってのトラウマである魔獣の脅威から逃れて、私は腰を抜かしてしまったのもあるのだろう。立ち上がることすら満足に出来なかった。私は半分本気で彼に抱えるようにいったら、彼は渋々やってくれた。その腕の中が思ったよりも心地よかった。


 私はそのあとも結局この屋敷まで彼を連れてきて、彼にあの件の候補にあげようとしている。本当にそれで良いのだろうか? 私は恩人である彼をこれ以上振り回して良いのかと考える。けれど、彼はきっと、あるかもしれない私の間違いを正してくれる。そんなことを考えてしまう。

 一度は私の騎士ナイトを名乗ったのだから、それ相応は働いてもらおうと、そう思った。きっと私は卑怯だけれど、彼に惹かれつつあることだけは、なんとなく自覚出来てきた気がする。






===============================<セラside>


 




「遅い」

 俺は一人接客室のソファでで二時間ほど待たされていた。時刻はとうに夕方などというものを指していない。

 そんな状態で俺は、今日の夕飯をどうするか真剣に悩んでいた。宿の食堂は間違いなく閉まっている。宿代金は今日一杯までは先払いしているので問題は無いが、かといって明日以降をどうするか考えていなかった。

「ごめん、セラ。遅くなっちゃった」

 扉が開くと同時にミルの声が聞こえた。俺は嫌そうな顔をそちらに向ける。

「遅いとかいう問題じゃないだろ。それで? 一体な、ん、の……」

 ミルを視界に納めたときには言葉が続けられなかった。

 特徴的な蒼い長い髪と青い目、白い肌をさらに際立たせるような濃紺のドレスを身に纏っていたのだから。

 それはもう、十人の男がいたら全員がその姿を脳裏に焼き付けそうなほど似合っていた。

「セラ? どうしたの、固まって?」

 ミルがきょとんとする。

「ああ、すまない。完全に見惚れてた。それで、あの件ってのは何だ?」

 俺の言葉にミルは一瞬顔を赤くしていたが、本題のことを思い出したのか、すぐに真面目な顔になる。

「えっと、その前に。ご飯にしない?」

 何故真面目な顔してそういう話題に行く? おかしくないか?

「いいのか? そんなことしてて」

「いいの、それじゃ、行きましょ」

 ミルは俺に近づいてきて俺の手を取り、引くようにして扉に向かう。もはや問答無用だな、これは。

「なんか、晩餐終わる頃にこの話に片が付いてそうな気がする」

 俺が呟いたその小さな独り言はあながち外れていなかったことにはもはや何も言わないでおこう。





「お父様、入ります」

 扉をノックしていたミルに連れて来られたのは大きな扉のある部屋。現在、その前に居る。……ちょっと待て。いきなり当主と対面か?

「ミルフィリアか。入れ」

 低い声が聞こえてくる。計画前倒しじゃないか、これ。その辺りは後で考えるか。

 扉が開き、目に入ったのは予想通りの広い部屋。おそらく食堂か何かなのだろう。大きなテーブルの奥に一人の男が座っていた。

「君が候補者か。ふむ、思ったより貧弱そうだな」

 見た感じの年は三十代半ば、と言ったところだろうか。思ったより若そうに見える。俺の記憶が正しければ実年齢は十年分ぐらいの差があるはずだが。

「実際に貧弱ですからそう見えて仕方ないですよ、当主。さて、そろそろその候補者とやらの説明はしてくれるんだろうな、ミル?」

 入ると速攻でけなされたようだが、軽くいなして近くの席に着き、ミルに振る。嫌な予感しかしない。

「えっと、その。セラ、私の婚約者候補になってくれない?」

「却下する」

 考えるよりも先に口から否定の言葉が出ていた。我ながら酷いとは思うが、会って一日で婚約者候補になってたまるか。

「……だ、そうだが? 何故、こんな輩を連れてきたのだ?」

 当主が呆れた顔でこちらを見てくる。はっきり言って、俺は被害者でしかない。

 そんな俺を差し置いて、ミルが少しうつむいた後、何かを決めたように当主を見て、啖呵を切った。

「お父様の連れてくる婚約話にはこりごりなんです!」

「何を馬鹿なことを。我ら資産家の跡継ぎを得るためには必要不可欠なことだろう」

「あんな私の体と地位目当てで来る奴らは嫌だと、何度も言ったではありませんか!」

「何も考えず、言うことがそれか。彼らは名のある家の者達ばかりだ。そこにいる、どこの馬の骨とも分からん奴の方が良いと言うのか?」

「ええ。よっぽど良いわ。私との婚約を端から断ったのは彼ぐらいなものだもの」

「大体、おまえはそいつの何を知っているのだ? アートンから聞いた限りでは学園で会ったばかりと言うではないか。」

「恋に時間は関係ありません!」

「私を馬鹿にしてるのか?」

 ……なんていうか、最初からずっと俺が馬鹿にされてる気がするぞ。そもそも、断ってる相手を候補に入れようって時点で間違いだと何故突っ込まない?

「しておりません。しかし、この件に関しては一歩も引く気はありません」

「ふむ。して、君はどうなのだ?」

 やっと俺にお鉢が回ってきたか。それにしてもこれ、どうやって収集付けようか?

「くだらない親子喧嘩に付き合う義理もありませんし、そもそも婚約者候補などにもなる気はないです」

 前半部分についうっかり本音が出てしまった。当然、わざとやっているのだが。

「これが、くだらないだと?」

 当主が怒気をはらみ始めた。この人、頑固親父の性格そのままだな。

「くだらないですよ。娘が嫌がる婚約させて嬉しいんですか? それに、資産家当主と親、今の貴方の立場はどちらなんですか?」

「資産家当主でもあり、親でもある。当たり前のことだろう」

「……駄目だ、思ったよりレムクラン当主は頭がお堅い。ミル、レムクランの家族構成は?」

「何だと!?」

「え、えーっと、お父様に、スノー家を訪ねに行って今はいないお義母様、それに長女の私と、妹が一人よ」

 当主がなんか呻いているが気にしないで続けよう。

「つまり次期当主の権利はミル、今の君にあるんだな?」

「う、うん。そうなるけど」

「それなら話は早い。資産家としてなら彼女に相手を選ばせるべきだ。少なくとも直系の男子がいない以上、次期当主の考えを現当主が完全無視して良いはずがない。」

「何を言っておる! ミルフィリアは名のある家との婚約をだな……」

「何度も言わせないでください。親なら子供の幸せを願うべきです。それとも、自分の理想のために子供の未来を奪ういますか?」

 さすがにこいつ、頭堅すぎだろう。見てる分には面白いが、やられる側は大変気分が悪い。

 いくら資産家といえど、この世界において政治のような駆け引きは皆無と言って良いだろう。それに対して家にこだわる理由も、もう、随分昔に廃れたのだから。

「貴様!! 私に向かってなんて口を!! 私を誰だと思っておる!!」

「レムクラン家当主ハーベルト・レムクラン。けれど、他の資産家当主には幾分劣っているみたいですね、柔軟な考えが出来なさすぎです。」

「こいつ、言わせておけば……」

「ちょっと、セラ!」

 黙っていたミルが俺を黙らせようとするが、俺としてはここまでくだらないもの見せられて黙るつもりはない。

「そもそも、街中で魔獣が出たことに対して、情報の一つも掴んでないのでしょう?」

「何を言っておるか! 街中で魔獣などいるわけがない!!」

「他の二つの資産家である、セルレイ家とスノー家。どちらも街の外の襲来より中の方に注意しています。城壁内部での出現は危険に直結していることぐらい考えればすぐに気付くことです」

「その光景を見たような口を利くな。どうせ知ったかぶりであろう!!」

「その進言をしたのが僕だと言ったらどうします?」

「ハッ、そんな馬鹿なことを信じるとでも? 貴様は誰だというのだ?」

「執事から聞いたのでしょうが、あの人、名前まで通してないんですね。納得しました。改めて名乗らせていただきます、当主。僕の名は……セラ・ヴレイヴス」

「ヴレイヴス? まさか、貴様、セルレイが言っていた、あの……」

 ミルが小さく驚いた仕草をしたのを視界の端で捉えた。さすがにこれ以上はまずい。

「それ以上は駄目ですよ? ミルがいる。これはまだ彼女に話すべき段階じゃないはずです。」

「しかし、本人であるという証拠がないではないか」

「なんでしたらナーズダムさんに連絡とりましょうか? 個人的には居場所知られたくないのであまりしたくないですけど」

 ナーズダムさん、というのは資産家セルレイ家の当主のことだ。あまり関わりたくないが、話が円滑になるならば仕方がない。

 主に彼ではなく、その娘に多大な問題があるとだけ注釈しておく。

「何を言っておるかさっぱり分からんが、他に何か無いのか?」

「……"番人"と"鍵"。こんなもので良いですか?」

「貴様、どこまで知っておる?」

「どこまでも。さて、話が大幅にずれましたが、元に戻しましょうか。彼女の婚約話は破棄、彼女に一任する。それに街中の魔獣監視強化をする、というのでいいですか?」

 そう、脱線しすぎなのだ。俺の身分証明なんてどうでもいいだろう。後半の要求はもともと通すつもりだったのでこの際ついでに要求した次第だったりする。

「く……致し方あるまい。ミルフィリア、この一件はおまえの好きにしろ」

「本当ですか、お父様! ありがとう、セラ!」

 当主が折れ、ミルが椅子に座りながらも暴れんばかりの浮かれっぷりである。やれやれ、やっと面倒が済んだ。当主は苦虫を噛み潰した表情ではあるが。

 俺が一息つくと、当主が鈴を鳴らし、先程のアートンという執事を呼び出してなにやら指示していた。ここまでくると、飯いらないから早くここから出たいと思ってしまう。

「そころで、セラ・ヴレイヴス。君は何のためにここに来た?」

 当主も落ち着いたようで口調が戻ったようだ。水に流すのだけは早いらしい。

「さっきの言葉の件で、独自調査に来ました。本来ならばもう少ししてからこちらを伺うつもりでしたが、彼女に連れてこられてしまって」

「それで、現状よりも・・・・・魔獣が出てくるのか?」

「十中八九、まず何度も出てきますね」

「どうする気だ?」

「元を発見次第、殲滅します」

「対象は、いや、これは聞くまでもないか」

「ええ。知っての通りのことを遂行するだけです。ひとまず、僕に郊外に簡単に行き来できる権限をくだされば、明日からでも徹底的にやらせていただきますが?」

「……許可しよう」

 やれやれ、本題の方がほとんど進んでいなかったが、これで何とかなるだろう。

 タイミング良く、扉のノックされた音が聞こえた。

「お父様、リアレスです」

「うむ、入って良いぞ」

 俺が見たのは、ミルよりも少し薄い蒼色、詰まるところ水色の髪と蒼い目の少女と、その傍らに立つ、茶髪ポニーテールのメイド少女だった。

 お気に入りに登録してくださった方々に感謝の意を。

 冗談どころではなく、本気でしてもらえるとは思っていませんでした。


 次回の投稿は少し間を置かせていただきますが、短期間に数話まとめてあげる形にしたいと思います。話がぶれかねないので、しっかりとしたいとかなんとか。もう遅いとか言わないでくださいね?(滝汗

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