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Proving Ground  ~喪失と融合の世界~  作者: 時雨 彰弘
序章:開拓地(フロンティア)と呼ばれる世界で
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第2話「入学式」

 俺は今、レヴァという街の学園にいる。と、いうのも俺が学生という役割を持つ年齢だからであるが。何でこんな事をしているのだろう、とか思っても、学生の年齢だからということで全て片付ける。そして、その学園で今、入学試験兼入学式を行っているのだ。

「受験番号404番、呆けていないでさっさと攻撃してこい」

 見るからにごつごつした重量級の鎧に身を包んだ大柄な男が俺に向かって言葉を掛けてくる。ちなみに、受験番号404番は俺のことを示し、大柄な男が試験官。非常に分かりやすくていい。ここまでの状況だけで察しているとは思うが、俺は受験者だ。現在地はアリーナの舞台。試験内容は、魔法を用いた実技、いわゆる闘技と呼ばれるもの。そう、この世界には魔法という摩訶不思議現象がある。その意味では俗に言われる剣と魔法の世界とも言うべきなのだろうか?

 そういえば受験番号が悪い気がする。これって一部の人から見たら落ちるような不吉な数字じゃないのだろうか。見つからない数字で有名だし。……まぁ、どうでもいいか。そんなことより試験だ、試験。

「攻撃しても、怪我とかはしないですよね?」

 くだらないことを考えながらも一応確認はする。怪我なんかされたらお話にならない。

「ふん、入学希望者相手に怪我などはほとんどしないが、万が一は考慮している。ここは《仮想空間イメージエリア》なのだ。つまらん心配はせんでいいから、さっさとかかってこい」

 《仮想空間イメージエリア》というのは、現実に体をおいて精神だけフィードバックする空間、ではない。現実の体ごと魔法で形成された空間に入ることで、精神体に強制変換する空間を示す。つまり、ここで受けたダメージでは怪我はしない。だが、精神体になると言うこともあり、精神的なダメージはあり得るのだ。

「ついで、というのも語弊がありますけど、別に攻撃は詠唱魔法でなくてもいいですよね?」

 魔法は三種類に分類される。簡単に言えば、詠唱をして発動させる『詠唱魔法』、魔法陣を介して発動する『術陣魔法』、最後にただ単純に魔力を放出するという行為でそれは特に名称がないが俺はあえて『魔力放出』と呼んでいる……そのままだが、分かればいいんだ、分かれば。基本的に魔法と言えば、前二つを示しており、最後の一つはもはや魔法にすら分類されていない場合が多い。実際、気合いの方がしっくりくるほどだから仕方ないが。もっとも、それに分類しないのは魔力放出だけで何らかの特殊効果を付与することが出来るからだ。そのあたりについて今は割愛させてもらう。

「別に術陣魔法でも、腰に差してある剣と銃による武器による攻撃でもなんでもいい。攻撃せんことにはこちらも採点できない」

 この試験は試験官相手に如何にして攻撃を当てるかで採点される。これは時間ではなく、手数で採点されるらしい。つまり、効率よく攻撃できるかをみたいということだ。

「では、これでいいですね? それとこれは刀で、剣じゃないです」

 俺は懐から札を数枚取り出し、前に出す。ちゃっかり試験官の間違いを正すことも忘れない。俺の左腰に差してあるのは剣ではなく刀なのだから。

「どこが違うのか全く分からんが、早くやれ。魔法陣使いなら発動までに時間がいるのだろう?」

 試験官が最後に言った言葉、それこそが理由でこの試験は時間採点ではないのだ。術陣魔法に必要な魔法陣は描くまでに時間が必要なのだから。だが、俺には関係がない。

「魔法陣は、いりません。僕が使うのは符術ですから」

 俺は喋りながら、手に持った札を試験官の方に向かって飛ばす。薄い紙がまっすぐ飛んでいくのは不自然なことだと考えてしまうが、札にはそのための魔法も併せて掛けてあるのだ。これも一種の常識なのだから横槍は不要である。

「符術? これはまた珍しいな。」

「そうなんですか? 僕はそこまで珍しいとは思ってませんでしたけど」

 その間に数枚の札が試験官周りを囲うように飛んで回り始める。

「ふむ……我の前に立ちふさがる脅威、我はここに防ぐと願わん。《障壁シールド》!」

 試験官が念のために基本的な防御魔法である《障壁シールド》を周囲に張ったのを確認したので俺は起爆準備・・・・に入る。詠唱を完全破棄してないとはいえ、そこまで強固なものではなさそうだった。

「わざわざ防御魔法を使わせたのだ。それなりに威力はあるのだろう?」

 試験官が俺を試すかのように言ってくる。

「そうですね。では、いきます!」

 俺は右手を前に出し、指を鳴らした。それが、合図となった。

「こ、これは……!!」

 試験官の驚愕と共に、札が一斉に爆発を起こす。付近一帯の空気が振動する衝撃と爆音が響いた。それに合わせて、俺はわざとらしく耳を塞ぐ動作をした。

「あー、やっぱり一枚で良かったか? 威力高過ぎるだろ、これ」

「そんなことはない。なかなかおもしろい奴だな、おまえは」

 威力を見た俺が独り言を言うと、試験官が相槌を打つように答えてくる。爆発後の煙が晴れて姿を確認する限り、怪我などは一切していないようだった。弱そうに見えた《障壁シールド》も全て壊れたわけではなかったようである。

「あれ? 無傷ですか?」

「当然だ。だが、《障壁シールド》なしではさすがに危なかったかもしれん」

 男はそう言ってはいるが、若干足下がふらついている。どうやら魔力をかなり使ったようだった。再展開を咄嗟にした可能性も否定できない。そうなると、考えられるのは俺が威力調整に失敗したらしいということか。まったく、どこまで威力を削げば・・・いいんだよ。

「必要なら、余力もあるので続けますけど?」

 一応、形式だけでも手札があることにしておかないと、手を抜きすぎで不合格とかになりたくはない。

「その必要はない。符術使いならばここ以外で面倒を見きれるわけがない。むしろ、最初からそれを連射されれば打つ手もなかったのだからな。受験番号404番、レヴァにある特級学園への入学を許可する。」

 俺はその言葉を理解できた。すなわち、合格ということである。

「ありがとうございました!」

「ふん、その刀とやらを使いこなす努力もするようにな。受験番号404番、セラ・ヴレイヴス」

 その言葉と同時に、俺は仮想空間を出て行く感覚を味わったのだった。この感覚は、なんというか、なれないと気持ちが悪い。

 それにしても、刀とやらを使いこなす、ね。ひどい扱いだが、予定通りにいけそうだ。


***


「……で、あるからして……」

 眠い、とは言わない。が、暇ではある。

 あの試験の後、入学式開始時刻が昼過ぎであることを伝えられ、開始時刻まで街をのんびりと見物したりしていた。試験開始が朝からだったのに昼から入学式というのは、試験が行き先面接的な意味も含んでいる事を考えれば、まだ分かる。

 そもそもあの試験は選別試験であって、正確には合否はなく、通う学園の行き先を決めるものだったりするのだ。試験は二種類、実技重視型と知識重視型。どちらかを選択してその結果で行き先が決められる、というシステムである。これは志願者が志望するのにも関わらず学園に通えないと言う問題を解決するために作られた。だが、これは表向きであって、才能ある者は主要地区の大きい学園に、そうでない者は遠くに行かされるというのが現状であり、問題解決にもなっていない。これは入学時だけではなく、今後も定期的に試験をやって通う学園のレベルを変更されることがある、と言うことも示す。要はクラス替え試験のようなものと考えればいいだろう。

「……君たちはこの特級学園に入学できて……しかし、これは……」

 現在、入学式につき、もはや聞く気も起こらない校長の長話が現在も続いている。あまりにも暇なもので、自分で無駄な思考でもしないと本当に暇で死にそうになってくるのだ。さて、さっきまで何を考えていたか、ああそうだ。学園のシステムがクラス替えみたいなものだってことだったな。

 学園はこの世界の主要三カ所のそれぞれの街に最大級のものがある。それを特級学園と呼び、学園に入る者は皆、ここに入りたがる。そこからランク順に第一級、第二級と第十級まであり、最後に出てくるのが第零級である。ランクが下がる事に物理的に特級から離れていくというシステムがあるのがこれだ。ちなみに、第零級に関しては第十級でも落ちこぼれた生徒に与えられる最後の関門であり、そこに入れられた場合は大抵退学処分にされる。とはいえ、自主的に学園に入りたがる生徒がそこまで馬鹿げたことになるわけがないため、強制退学などというひどいことはそうそうない。だから、基本的には十一種類の学園が在ると言って良いだろう。

「……ここで学ぶということは……自覚ある、学園生活を……」

 とはいえ、悠々と学園生活を送るためにはこのシステムを理解し、落ちないようにする必要がある。校長の長い話はそれを説明しているのだ、たぶん。入るときはどちらか一つを重視できたが、入学後はそうはいかない。実力がない者は落ちるという弱肉強食の世界なのだから長い話としたくなる気持ちも分かるけれども。

 そうそう、特級がある三カ所の街にはある共通点がある。それは、この世界の実質的な頂点に立っている“資産家”という家が存在していることだ。実はこれが特級を目指したがる理由だったりする。つまり、この学園の卒業時のランクによっては資産家と近づくチャンスも出来るということであるから、出世の大チャンスなのだ。

 俺はといえば、別にそんなことに興味はなくて、ここに来たのはもののついでだったりする。少なくとも、学園にも行かずにこの街で生活していたら俺はこの街に入れなくなりかねない。

「……この世界は平和である。けれど、それは支える者があってこそ……」

 ……本当に長いな、この話。暇だし、どうやらこの世界の成り立ちでも話しているようだから、それについて少しは考えてみるか。

 この世界は平和だ。それは街を外敵から守る城壁や、高度な治安のおかげだろう。外敵には主に魔獣と呼ばれる謎の生物っぽい何かが挙げられる。ちなみに、魔獣に対してそんな認識で世間を通れるわけでなく、獣らしい魔物、とでも考えてもらえばいい。と、そんな奴らを駆逐していくのは主にギルドだ。治安維持は街を守る守兵隊の仕事、魔獣退治などの戦闘はギルドに任せればいいという役割分担だと世間は言う。その風潮のせいか、この学園卒業者はギルドに行く者も多い。

 だが、当然ながら、ギルドに所属したからといっても魔獣と互角以上に戦える訳ではない。それなら赤ん坊でもギルドに入れればいいことになってしまう。当然、時には傷つけられるし、最悪の場合、死ぬことだってある。そのためにはまず強くならなければならない。だから、この学園では、自衛の手段も含めて、相当のレベルの戦闘をしていくこととなる。そのための魔法をもちいた実技試験、闘技を行っているのである。実際のところ、知識重視型は受験者が500人ほどしかおらず、内の10人ぐらいしか特級にいけない。戦闘重視型が特級一学年約160名の内、150人を占めているのが事実なのだ。よく考えれば、馬鹿が多いのかもしれないのが実情だ。……ともかく、今日の朝の試験は知識重視型にとっての特級と第一級の境界判別試験だったということになる。ちなみに、俺は知識重視型だ。こんなところで自分の手札を切ってたまるか、という死活問題の上での決定。

「……では、君たちの成長に期待する。以上だ。」

 と、やっと終わったか。長い話だったことで。

「では、各自、会場に入ったときに渡された白いカードに各々の魔力を通してください。」

 入れ替わりに司会係が入学式会場に入る時に渡してきた白いカードに魔力を通すように言ってくる。俺は指示通り、魔力をカードに魔力を通した。

 すると、カードの色が変わった。単純に、白いカードが黒いカードに変わっていた。なんだこれ? 行き先を書いてあるわけではないのか?

「カードの色の変化したクラスに向かってもらいます。それがあなた方のクラス分けとなります。その色のプラカードのところに並んでください。」

 どうやら、クラス替えのためのカードだったらしい。色にどういう意味があるのか全く分からなかったが、とりあえず、黒いカードのクラスに向かうことにした。

「あら? 貴方も黒カード?」

 呼びかけられて、ふと立ち止まる。声があった方を見れば、容姿端麗の少女がそこにいた。遠目から見ただけでもわかるメリハリの利いた体つき、と言えばいいだろうか?

 加えて言えば、彼女の容姿は髪と眼が青色であることから、宝石で言えば蒼きサファイアのような輝きを持った少女であり、その雰囲気には他者を飲み込む気品があった。

 決して他者を受け入れないという風ではないが、他者と一線を隔てることで纏う輝きがさらに強くなっている感じすらする。

「あ、ああ。そうだ。『貴方()』と言うことは君も黒なんだな」

 一瞬でもその美貌に見とれてしまったことに若干の恥ずかしさを覚えながら、俺は少女に答える。ああ、俺もまだまだ甘いか。色恋沙汰にうつつ抜かしている場合じゃないというのに。

「ええ。私はミルフィリア・レムクラン、以後よろしくお願いしますね」

 少女が貴族の挨拶として、スカートの裾を少しつまみ上げてお辞儀をしてくる。……って、ちょっと待て! ”レムクラン”だと!?

「これは大変失礼な真似をしてしまい申し訳ありません。レムクランの御令嬢とはいざ知らずとんだ粗相を。私はセラ・ヴレイヴスと申します」

 瞬時に意味を悟った俺はすぐにその場に膝をつき頭を垂れる。正直なところ、いきなり資産家・・・と接触するとは思っていなかった。

「そう、セラ・ヴレイヴスというの。貴方、面白くないわね」

 彼女が心底つまらなさそうに言い放つ。その声色は、期待はずれだったということか。俺だってこんなことをする意味はないと思うが、だからといって目立つようなことはしたくない。

「申し訳ありません」

 凄い美人に対してこんなことする俺って、もはや従者扱いだと思う。周りはこの光景を見て野次馬状態になって静かになってるし、誰か助けてくれとは少々思う。

「まぁ、いいわ。とりあえず、集合場所に行きましょう」

 靴音を立てて歩きだす彼女。俺はそれを確認した後、ゆっくりと立ち上がり、彼女と同じ方向へ向かう。それから、教室に着くまで、彼女は俺の方を一切見ようとはしなかった。

 これが、俺、セラ・ヴレイヴスにとって、特級学園での生活の始まりだったことを後にひどく後悔しそうになるなど、まだ知る由もない。


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