第1話「終わりの始まり」
焼き野原となった場所に、一人の青年と一人の少年が居た。
「何故、ここに来た?」
18歳前後であろう青年が問う。その青年は年相応の軽量級の鎧に身を包み、左腰に差してある剣の柄に左手を置きながら少年に問う。
「今更表向きの理由なんていらないだろ。貴方を止める。そのために俺はここにいる」
12歳前後であろう少年がその問いに答え、少年の背丈には不釣り合いな大きさの刀を鞘から抜き、構える。その刀は大人が扱えば普通の刀になるのであろうが、少年はまだ成長期前なのかまだ150cm程度の小柄な体。長剣にも見えなくもない。
「ふむ。さっきまで戦い続け、そしてまた戦うのか、おまえは?」
青年が訝しむように少年を見て言葉を出す。それもそのはず、青年が戦闘前の状態だとすれば、少年の姿は戦場を駆けた後のように血に汚れている。鎧も半壊、全身傷だらけ。それでも少年の目から闘志は消えていないのがよく分かる。
「貴方が、貴方がこんな馬鹿げたことをしなければ! それならこんな事にはならなかったはずだ!」
少年は心の底から吐き出すようにして青年に向かって声を出す。
「何を馬鹿なことを。おまえが居たから俺がこのようなことをしたのだ。全てはおまえの責任だ」
青年は少年の言葉に対して何もなかったかのように淡々と話す。
「だが、もういい。この世界も、もう飽きた。俺はこれから他の世界に行こうと思う。おまえは俺を止めるとか言っても、これ以上追いかけてくる根性はないだろう?おまえはそこで無力を呪っていればいい。」
青年が剣を抜き、構えた瞬間、二人の姿は消えていた。否、視認出来ないほどの速さで戦闘を開始したのだ。
実際、剣と刀がぶつかり合う音が辺りに反響している。
「そこまでして、俺より優秀と認められたいのか!?」
何合か打ち合った後、鍔迫り合いになり、少年が青年に向かって叫んでいた。
「当然だ! 俺はそのために生まれ、生きてきた。それを貴様が全て壊した! 俺の努力も何もかも!」
青年もここに来て叫ぶ。年の差はあれど、実力は拮抗しているらしく、鍔迫り合いから距離を取り直すことさえお互いにつく隙もなかった。
「だったら、なおのこと、こんな手段はやるべきではないはずなんだ!」
それでも少年は叫ぶ。
「貴様に何が分かると言うんだ! そんなに使命が大事なら、俺を倒してみればいいだろう! その全身に付けた血の跡のように、蹂躙してみせろ!」
青年が加速し、少年に向かう。
「加速術式ならば、こちらもだっ!」
少年も加速し、青年に向かって行く。
「貴様を倒す!」
「貴方を止める!」
そして――半径2kmを焼け野原と化す原因となった、魔法も併用する大規模戦闘が、たった二人によって引き起こされることとなったのだった。