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ショートショート:出された物は美味しく頂く

掲載日:2026/09/17

 まずは一品目。日本で専門店でしかお目にかかれない、ゴージャスなハンバーガーだ。


 まずはその見た目に圧倒される。これでもかと高くそびえるバンズとパティの強いビジュアル。そのままだと崩れてしまうので串を縦に刺してある。


 ここまでくるとそのままかぶりつくのも難しい。なのでナイフとフォークで切り分けて食べる。バンズは柔らかく、ナイフを刺した手を押し返してくる。そのまま切り分けるとパティからあふれ出た肉汁がジュワッと流れてきて、口に運ぶ前から期待が高まってしょうがない。


 切り分けたものを、やはりハンバーガーだということでフォークではなく手づかみで口に運ぶ。あちち、こぼれた肉汁が手に付いた。


 口に入れると期待通りの肉のうまみが口いっぱいに広がってくる。同時にソースに使われているグレービーソース、そしてかぐわしいチーズの香りも合わさって、これはもうたまらない。


 時折現れるピクルスの酸味もいいアクセントだ。挟まれたシャキシャキのレタスの歯ごたえも楽しい。あくまでもパティのうまみをメインにしながらも、その他の具材がうまく混じり合い、それぞれ香ばしさもあって舌の上で交響曲を奏でているようだ。


 これを知ってしまうと、ファストフード店のバーガーでは満足できなくなる。これが本来のハンバーガーなのだろう。素晴らしい。


 さて、その次は二品目だ。


 現れたのは中華点心だ。熱々の蒸籠に入った小籠包。横のテーブルに既におかわりが鎮座している。足りなければいくらでも追加可能だ。


 レンゲに小籠包をすくう。ほかほかの蒸気が鼻をくすぐる。箸で割ると、中から美味しそうなスープがあふれてきた。見ているだけで食欲が刺激される。


 口に運ぶと、とても熱いスープが口内を焼いてくる。同時に皮に包まれていた香りと旨味がどんどんと攻めてきて、まさに美味の暴力だ。必死に冷ましながらスープを飲むと、舌から喉に至るまで幸せの味わいが突き抜ける。鼻腔にも香りが抜けていき、余韻が心地いい。ああ、しみじみとうまい。


 熱さに負けず、次々と小籠包を口に運ぶ。いくら食べても食べ飽きない。三つ入っていた蒸籠が空っぽになったので追加を手に取り、開く。するとまたもや蒸気が立ち上り、熱々の小籠包が目の前に現れる。中華点心はやはりこうでないと。食べたいだけ食べられる。蒸気で蒸されたごちそうが無限に出てくる。これこそが幸せという物ではないかとすら思える瞬間だ。


 空っぽになった蒸籠を積み上げたところで三品目に移る。


 今度は見た目がもうヤバい。どんぶりが真っ赤だ。


 こういう機会でもなければ食べることも少ない、激辛のラーメン。色もさることながら鼻にも突き刺すような唐辛子の匂い。もう辛い。見た目で辛さが分かる。


 具として入っているのは緑も鮮やかなチンゲン菜、トロッとした見た目のそぼろ肉、そしててんこ盛りの糸唐辛子。


 まずはどう手を付けるべきか。そう考え、まずはレンゲと箸を持つ。無難に麺に手を伸ばすが、一気にすする勇気はない。なのでレンゲにスープをすくって麺と絡めて、恐る恐る口に運ぶ。


 唇に触れた途端に突き刺す辛さと痛さが襲いかかってきた。だがそれだけではなく、スープの芳醇な旨味も押し寄せる。


 口に含むと強烈な刺激と共に、これまた強いスープのコクも舌の上で踊る。同時に予想していなかった香草の風味も強い主張を示してくる。独特のパクチーの香りが辛さと旨味に負けていない。


 スープは魚介系だ。海産物の旨味がこれまた口の中で広がっていく。それぞれの要素が唐辛子の強烈な刺激にあらがうように渦を巻いている。


 やや慣れてきたので、麺をゆっくりとすすっていく。するとこれまた麺の歯ごたえと味わいが口の中で広がっていく。小麦の風味はしっかりと感じられ、噛めば噛むほどそれは強まっていく。ストレート麺は喉ごしも良く、するすると胃に収まっていく。こんなに辛いのに食べる速度は増していく。音を立てて麺をすするの、それこそがラーメンを食べている実感と言える。


 最初はおっかなびっくりであったが、結局完食してしまった。あちこち口の中がヒリつくので、冷たい水を飲んでクールダウン。


 さて、ここまで食べてきたが、四品目は別の意味で見た目がエグい。


 運ばれてきたのは山盛りになったチャーハンだ。味付けや色合いは普通の街中華で出てくる良くあるタイプ。だが、とてつもないデカ盛りとなっている。


 ここまで量が多いと、相撲取りでも完食できないのではないか、そう思えるインパクトだ。大食いチャレンジとしても常軌を逸しているかもしれない。


 しかし、今の俺なら食える。きっと完食できる。そう信じて俺はレンゲを握った。


 まずは一口。うん、美味しいチャーハンのイメージのそのまんまだ。香ばしく炒められた風味が食欲をそそる。……目の前の光景を考えなければ。お米に混じって加えられているのはカマボコを小さく刻んだものか。歯ごたえの変化が楽しい。そして茶色くなるまで油で炒めた白ネギと新鮮な青ネギのコントラスト。これまたその香りも相まって嬉しい工夫だ。


 とまあ、数口までは美味しく食べられた。だが、嫌でも目に入る山盛りのチャーハン。ここからは自分との戦いだ。


 ただひたすら黙々と、チャーハンを口に運ぶ。それだけでは飽きて手が止まってしまいそうになるので、時折隣にある中華スープをすくって飲む。溶き卵が喉を通る感触もいい。


 あとはとにかく食べる。食べる。食べる。ここまでくると食事をしている感覚はない。機械的に口にチャーハンを入れる、その動作をただ繰り返していく。大食いチャレンジに挑む人はアスリートだと誰かが言ったような記憶がある。やってみて分かるが、これは確かに競技だ、格闘技にも近しい感覚だ。


 どのくらい時間が経ったのか?ただただ食べ続けていた俺の前には空っぽになった皿があった。やり遂げた。とうとう俺は勝負に勝った。


 ……全ての料理を食べきった俺は、万感の思いでヘルメットを外した。それと同時に脳神経との接続も解除される。


 俺はVR環境からログアウトした。普段なら食べられない食べ物、料理を体感するために五感を全て接続するVRを使っていたのだ。特に次の日にダメージが残る激辛ラーメンや大食いチャレンジなんて、実際にやったら大変だが、VRなら気にせず楽しめる。


 さて、実際に食べていないのに食べた感覚だけが残るので、実際の体に空腹感が襲ってきた。


 じゃあ、とりあえず牛丼屋でも行くか。

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