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キューブ −世界再生の生贄−  作者: 志築いろは
第1章 Unexpected Reunion

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第12話 キューブ

 その日も彼はいつもどおり、仲間たちとともに険しい鉱山の深い横穴にもぐっていた。


「この辺りはもう掘りつくしちまったかねぇ」

「こんだけ掘って、なにも出てこないんじゃあなぁ……」

「少し戻ることになるが、西のほうに割れ目があっただろう? そっちを進めたほうがいいんじゃないか?」


 つたないランプの明かりを頼りに四方八方へと空間を広げていったものの、途切れた鉱脈の行方が見つかる気配はない。

 このまま闇雲に掘り進めるよりも、少しでも可能性のある別のルートを開拓するのもひとつの手か。


「おおーい、引き上げるぞー」

「ああ……」


 明日から仕切り直しだとばかりに片づけを始める仲間たちの声に、青年は生返事をして岩壁を見遣った。


(せっかくここまで掘り進めてきたってのに……)


 先人たちから受け継いできたこの坑道も、そろそろ引き際なのかもしれない。

 とはいえ、青年にとってはそうすぐに諦めきれるものでもない。長年村を支えてきたこの鉱脈は、彼の先祖が発見したものだったからだ。


 彼は一縷(いちる)の望みをかけて、「最後にもう一度だけ……」と力のかぎり岩壁につるはしを打ち込んだ。


 リィ……ン――


 坑道内に響き渡る澄んだ音色。

 とたんにひび割れた岩壁のすきまから、目もくらむようなまばゆい光があふれだした。


 青年は慌てて仲間たちを呼び寄せた。

 興奮冷めやらぬまま、みなで光の出どころを慎重に削り出していく。


「なんとっ、これは……!」

「ああ……! 神よ!」

「奇跡じゃ……! 奇跡じゃあっ……!!」


 これほどまでに無数の輝きを放つ物質を、いまだかつて目にしたことがあっただろうか。

 小さな集落は歓喜に湧いた。

 きっと天からの贈りものに違いない。


 彼らはその宝石を村の宝として(あが)め、大切に(まつ)ることにしたのである。

 村人総出で小さいながらも立派な神殿を築き、人々は毎日こぞって感謝と祈りを捧げていた。


 しかしながら、いかんせん物資も乏しい辺境の、山奥の貧しい集落である。外部との交流もほとんどない。

 そればかりか、その後数年に渡り相次いだ凶作や鉱産資源の減少などが原因で、村は急激にやせ衰えていった。


「なんとかなりませんか、長老!」

「このままでは、村が滅んじまう!」


 日に日に大きくなる村人たちからの訴えに、長老は苦渋の決断を迫られていた。


「こうなっては仕方があるまい…………村の宝を……あの宝石を、手放すしかあるまいて……」

「長老っ……!」

「そんなっ……! ああ神よ……!」


 結論から言えば、長老の決断は功を奏した。

 数年の時を経て公表された未知の宝石の存在に、世界中が騒然としたのは言うまでもない。

 大きさ。純度。輝き。すべてがこれまでの常識を(くつがえ)すほどの逸品である。

 これが特別な加工を施したわけではなく、原石のままだというのだから驚くのも無理はない。

 連日のように各国のメディアが現地につめかけ、小さな村は一種のお祭り騒ぎだった。もちろん、多くの宝石商やコレクター、野次馬までもがこぞって村に押しかける。


 人々を魅了する輝きを手にするのはいったい誰なのか。

 その行方に、世界中が注目していた。


 そんなおり、少しでも安く仕入れようと画策する宝石商やコレクターを黙らせたのは、一人のとある東洋人だった。

 提示された金額は並大抵の額ではない。村にとっては、それこそ何十年も飢えることのない生活が保証されるほどである。

 くやしがる数多の宝石商を尻目に現地から持ち帰られたそれは、そのまま民間の研究機関に送られることになった。


「内部からこれほどの光を放つ物質が、ただの宝石であるはずがない。きっと、我々の知らない秘密が隠されているはずだ」と――。


 成分分析の結果、宝石は地球外の物質である可能性が有力視されたが、その根拠となりうるデータに一致するものがなく、未知の物質であるとの結論が出された。

 『キューブ』と名づけられた宝石は国家予算を投じた研究施設へ移され、そこでさまざまな研究や実験がおこなわれた。

 無数の色に変化する輝きは時として研究者たちに容赦なく猛威を振るい、度重なる実験の過程で命を落としていった者も少なくはない。

 キューブに秘められた可能性と危険性の狭間で、研究者たちは実態解明に心血を注いでいた。



 数年後、転機となる事件が起こる。


 ある研究者の幼い娘が、目を離した隙にキューブの保管室へ迷い込んでしまったのである。

 幼い少女の目には、光り輝くキューブはそれこそ、おとぎ話に出てくる宝物にしか見えなかったことだろう。

 彼女は好奇心の赴くまま、いざなわれるようにキューブに手を伸ばしていた。


 大人たちが気づいたときには、すでに少女の姿は光に包まれたあとだった。

 誰もが最悪の事態を想像した。

 これまでその光をじかに浴びて、無事に済んだ人間はいなかったからだ。


 だが絶望する研究者たちを尻目に、少女はなに食わぬ顔でそこにいた。


 体内にキューブの欠片を宿して――。


 その日を境に、少女は高い身体能力と常人をはるかに上回る回復力を手にすることとなった。

 当然、権力者はその力の有用な部分にのみ注目し、それを利用しようとするのが世の常である。彼らは適合者を増やすことに躍起になっていた。


 そうしてある日、突如として脅威が人類に牙をむいたのである。

 のちに『ペッカート』とよばれる、未知の生命体の出現であった。




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