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沼田と乾さんに挨拶を交わそうとすると、すぐに噴水の傍に立つ男に注意された。男と判断したのは、やはり野太い声を出していたから。先ほどの変質者と同じように、虎の顔に蛇が巻きついた悪趣味なお面をして、黒いローブで全身を隠している。ただ、同一人物ではないと判断したのは、男がローブ越しでもわかる屈強な肉体をしていたからだ。何かスポーツをやっていたのか。お面はやはりホームセンターか。どうでもいいことを考えていると、男がお面越しに俺達をねめつける。少し睨んだ後、手に持った名簿のようなものに目を落とす。

「お前たちが最後だな。ええっと城山仁。城山奈々華」

名前まで知っていやがる。名簿の端にレ点を打つ動作。

「ここに居るのは全員参加者か?」

「……そうだ」

改めてぐるりと見回すと、まさに人種も国籍も関係なく集められてようだ。麻の着物を着た男まで居る。まさか時代までまちまちじゃないだろうな。

「全員揃ったところで本ゲームの詳しい説明をする」

さっきのおばさんのことを思った。誘導したのではないだろうか。


「既に各自に冊子は渡っていると思うので、本会では補足的説明を行う」

そうして始まった説明会で伝えたいことは概ね三点に絞られた。第一義的な意味合いを持たせているのは「ビーリング」の装着の確認だった。なんだってこんなに推してくるのかよくわからなかったが、俺は奈々華に預けたそれを受け取るために、左手を差し出した。思えばどうして右手を出さなかったのかと悔やまれる限りだ。俺の左手をがっちり両手で掴んだ奈々華は、その薬指に指輪をはめた。一瞬のことで何の反応も出来ないまま嵌った。奈々華は既に自分も同じ場所に指輪をはめていた。悪戯にしてはやりすぎだと思ったが、人目もある中で叱り付けたら恥の上塗りになると冷静な頭は判断してくれて、その場は何も言わずに流した。

次に説明があったのは「パートナーについて」の項目だった。いわくパートナー同士が百メートル以上離れると警告音が発生し、五分経っても両者の肉体の距離が百メートル以内におさまらない場合、失格と見なされる。これは四人、六人、八人…… 複数のプレイヤーたちの協力の可能性を示唆した。互いのパートナーと離れさえしなければ、同じようにしたツーマンセルを仲間に加えることが出きるのではないか、と。裏づけはその筋肉バカの説明を締めくくった言葉「この要件を満たさない限り、禁則三項にはあたらない」だった。

そして最後に、皆の一番の関心事であろう、ゲームの具体的な進め方に説明は移って行った。プレイヤーたちはこの世界にやって来たその時から二十四時間をこちらで過ごし、その中でビー玉を稼ぐということだ。ビー玉は貨幣と同じであるから、当然に労働の対価として支払われる。各町に、職業斡旋所のような場所があって、そこでは長期、短期問わず仕事を紹介しているそうな。この説明を聞いたとき、なんだやっぱり働かなくちゃいけないのか、と暗澹たる気持ちになった。しかし続く男の言葉で気持ちを持ち直すことが出来た。「通常の、少なくともお前達が暮らしていた世界で真っ当な職に就くよりも遙かに高い賃金を確約しよう」とのこと。どうせ働かなきゃいけないなら割の良い方が良いに決まっている。

ゲームはこちらの世界での滞在時間が二十四時間に到達した時点で、その場所から元居た世界に強制送還。次回開始地点は、その強制送還を受けた場所からとなる。


「質問を受け付けよう」

日本人らしく大人しくしていよう、と思ったが誰も全く口を開かないものだから、仕方なく質問をぶつけてみることにした。欧米人はこういうとき積極的に質問をするなんて聞いたことがあるんだが、どうにもそっち系の人間達も何を質問していいかわからないという風だった。混乱覚めやらぬということか。まあ異世界慣れしている方が問題だが。

「ここに来るまでの間に会った街の人間、アレはロボットか?」

「ほう…… まさかこんなに早く気付く者が居るとはな」

なめてんのか。伊達に人の顔色ばっかり窺って生きちゃいないんだよ。

「その通りだ」

男は少し嬉しそうに頷いた。明らかに俺達がいた世界よりも科学技術は上の集団が主催していることになる。さすがに自律の意思を持って人間と会話するロボットは開発されたとは聞いたことがない。

「じゃあ、アイツ等に暴力をふるっても罪には問われないのか? 最悪壊してしまっても殺したことにはならないんだから、いやそもそも他プレイヤーには当たらないんだから失格にはならないのか?」

もしそうなら、奴等から金を巻き上げていけば働くより手っ取り早い。やらないけどね。やらないよ、流石に。多分。背中の奈々華が睨んでいるような気がしたので心の中で弱い否定。

「当仮想世界における治安維持機構によって相応の処罰が下される」

さすがにそういう簡単な抜け道は用意していないか。

「そのお面は……」

「質問は以上です」

奈々華が口を挟んだ。


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