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正直意外だった。どちらかというと、こういうことに対しては消極的な反応を示しそうな子だと思っていた。俺の勝手なイメージだったということか。ついついサナちゃんを見てしまう。俺より数段低い位置の頭が俯いてしまったらこっちからは表情を窺い知ることはできない。カナも奈々華もどうやら俺達二人の様子を見ているようだ。ちょっとしてから、サナちゃんがおずおずと俺の手を握る。「いや、奈々華ちゃんが出たら良い線いくかなって」と、そんなことを書いてくる。

「サナちゃんは出ないのかい?」

「……」

首を縦にも横にも振らず。俺は考える。この反応は多少なりとも興味がある証拠ではないだろうか。女の子は…… いや、性別問わず、実は自分の容姿に完全に絶望を抱いている人間というのは少ない。まして俺の目から見てもサナちゃんは可愛らしい顔をしている。奈々華のようにハッとさせられる程整っているというわけではないが、顔のパーツもそれらの調和も可笑しな所はなく、所謂可愛い系というやつだ。そんな様子はおくびにも出したことはないが、実際彼女の内心にはちょっとした自信くらいはあるのかもしれない。加えて、こっちの方が大きいのだろうけど、ここは自分の住む世界とは違う。旅の恥はかき捨てなんて心理もあるのかもしれない。例えば箸にも棒にも、なんてことになっても、ここに永住するわけでもなし。多少開放的な気分になっているのかも、なんて邪推していると、

「サナはなんて?」

奈々華が業を煮やしたらしく聞いてくる。俺は彼女の文言どおり伝えた。

「そ、そうかなあ」

照れ照れ。

「……お兄ちゃんはどう思う?」

そんな照れた顔のまま俺に水を向ける。肩を揺らしてくねくねしだす。

「うん。腹が減った」

「お兄ちゃんはどう思う?」

ごまかし作戦は失敗。

「良いんじゃないか。きっと大丈夫だ。君なら出来るよ」

「……」

アレは飯抜きの顔だな。

「まあ良い線いくんじゃないか? まあ、その、なんだ。お前は俺と違って顔立ちだけは良いしな」

「顔立ちだけ?」

「ああ、いや。まあ性格も良いところはあると思うよ」

何だって妹の友達の前でその妹を褒め称えなくちゃいけないんだ。公開羞恥プレイとは高度すぎてお兄ちゃんはついていけません。

「なんでそんな引っかかる言い方するの?」

「皆の前で手放しで誉めたら、またシスコンだの、異常性癖だの罵られて嬉しくなるだろうが」

「お兄ちゃん、しょうもないボケかましてるところ悪いんだけどさ、コレ多分あたしら無理だよ」

貰ったビラを妙に大人しく見つめていたカナが声をかけてくる。

「どういうこと? あとお兄ちゃんはそろそろやめない?」

「ここ読んでみて。あと満更じゃないでしょう? ド変態」

受け取って読んでみる。どうやら参加するにあたっての諸注意が記されているようだ。ああなるほど、と一点を読んで納得。参加者以外は公平をきすために舞台袖には入れないようになっているらしい。つまり奈々華が参加する場合、男である俺は当然参加できないのだから、離れ離れになってしまう。そうなると俺達はゲーム自体に失格となってしまう。俺は何だか安心する。奈々華のしつこい追及を逃れられるからだろうか。兄として妹を見せ物みたいに人前に晒すことに抵抗があったからだろうか。まあどちらにせよ、俺は残りの二人にも参加が厳しい状況を伝える。ぶうぶう言い出す奈々華。そんなに出たかったのか。サナちゃんの顔を窺うとこちらもやはり少し残念そうだ。カナはというと、

「でも一つだけ何とかなる方法があるよね」

と建設的。何だ。そんな方法があるのか。色々考えてみる。俺と奈々華が離れすぎないようにする手立て。

「お兄さんも参加させればいいんだよ」

「はあ?」

素っ頓狂な声が出る。

「ミスターの部もあるのか?」

「いや。そんなことは書かれてないけど、参加資格に女性であることとは明記されてないんですよ」

それは当たり前だからじゃないのか。言わずもがなとかそういうことなんじゃないのか。

「だからルール上問題ないはずだよ」

「常識的に問題があると思うんだ」

「いいじゃないですか。今更お兄さんに失うものなんて何も無いでしょう?」

「いや、それはないけどさ。でもあちらに迷惑が掛かるんじゃないか?」

どうだろう、という顔をするカナは、ビラを配っていたお姉さんの下へと歩いて行く。何か話しているようだ。時折二人がこちらを振り返る。お姉さんは好奇の目をしている。カナがぺこっと頭を下げてこちらに駆け足で戻ってきた。

「大丈夫だそうですよ。前代未聞だけど面白そうだから良いんじゃないかって」

テキトーだな。

「まあいいじゃないっすか。可愛い妹のためだと思って」

「……そうだなあ」

チラリとサナちゃんの方を見る。

「じゃあ君らも参加するなら出るっていうのはどうだ?」

「え? あたしとサナ?」

「そうそう。どうだい?」

「無理無理。何言ってんの? 奈々華も出るのにウチに勝ち目があるわけないじゃん」

カナは顔の前で手をブンブン振る。その振られる手の向こうの顔。僅かに期待の色が見て取れる。女の子ってこういうところが面倒くさいよね、とは言えず、

「そうか? お前は結構整った顔してるし、サナちゃんもお人形さんみたいに小さくて可愛らしい顔してるし、タイプは違うけど二人とも可愛いと思うぞ?」

「な、な、そ、そんなこと……」

カナが慌てふためく。ちょっと面白いな。

「いきなり何言い出すんですか! 警察呼びますよ!」

暗にフォローしろってことだったんじゃないのかよ。それとも、そうだね奈々華に勝てるわけないもんねって笑い飛ばせと? そんな世の理不尽を感じていると、横顔にも何か感じた。嫌な予感がするので、目だけ動かして確認すると、奈々華がジトッとした目で睨んでいる。いやまあ身内ってなんか褒めにくいじゃん、と視線で語ってみた。そっぽを向かれた。

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