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結局一抹の不安を拭いきれないのは、俺の不手際だと自分で思うわけだ。組ごとにマチマチに呼び出されるという事実を知った時点で、こうなることは予測出来たはずなのだから、当然にそのケースに直面した際の対応を協議しておくべきだった。協議と言っても結論は単純で、外へ二人だけで行くなというものになる。

再び部屋に戻った奈々華と俺は、そこへ詰めることにした。数時間遅れで二人が呼ばれるかもしれないという可能性を買った。さっきとは違って、やるだけのことはやったわけだから、多少は気も楽になって欲しいところだが、どうにも俺は四人のリーダー格と言うわけでもないが最年長として、唯一自衛の手段を持つ者として、晴れやかな気持ちとは当然いかなかった。逆に奈々華の方がケロッとしてしまって、彼女なりに気が済んだのか、やはり切り替えの早さに俺は少ししっくり来ないのだが、今は嬉しそうに俺の隣に腰掛けてアレやコレやと話しかけてくる。

「何だか久しぶりだね」

「何が?」

「こうやって二人っきりで居るの」

「いつも家で二人っきりじゃないか」

俺の家に住むのは二人。何をつまらないことを、とは口にしないで思うだけ。それよりも二人が勝手に出歩いてしまって、他の参加者の毒牙にかかっているなんて最悪の展開は…… いや、よそう。奈々華が正しいのだろう。やるだけのことをやった。アレから街を二周ほどしてみて、街の人間にも人相を伝えて聞き込んでみたが、ダメだったわけだから、居ないと考えた方が現実的だ。

「違うよお。いっつもお兄ちゃん部屋に上がっちゃうし」

「お前は部屋までついてくるじゃないか?」

おかげで俺の一人の時間は随分と減った。宿題を見てもらうという名目でやってくる彼女の相手をする毎日。

「でもテレビ観てたり……」

テレビくらい観ても良いだろうが。

「パソコンでつまらないつまらないって言ってるクセに麻雀したり」

クソゲーくらいやっても良いだろうが。俺は奈々華の少ししょんぼりし出した横顔を見つめながら、彼女の言わんとしていることが実はわかっていた。要するに純粋に自分だけ構って欲しいのだ。全くお前は今年で幾つになるんだ?

「確かに…… 最近お前と話していないような気もするな」

話してはいるんだが、何の雑音もなく彼女とじっくり腰を据えて、みたいなのは少ない気がする。兄妹なんてそんなもんだろう。

「うん。だからなんか新鮮」

今の状況はそうするくらいしかやることがない。はあ、テレビもねえ、ラジオもねえ、車なんてそもそもねえ。だけどいざ話をしようよ、となって一体何を話せばいいのかわからない。

「学校は楽しいか?」

何でこんな質問が出たのかわからないが出ちゃったものは仕方ない。これじゃあ久しぶりに会った親戚のオジサンだろうに。と、そういや実際聞いたことはなかったな。人は案外自分で何でも決め付けてしまって、きちんと確認するということを怠ってしまう、という良い例だ。カナが居て、サナちゃんが居て、勝手に上手くいっているものと想像してそれで終わってしまっている。なるほど、色々話してみるというのも侮れないなあ。

「楽しいよ。友達は二人だけだけど、楽しい」

「二人ってあいつ等だけじゃねえか」

少ねえ。焦りのような感覚は、奈々華が学校でハブられている図を想像してしまったから。

「クラスで苛められているのか? お兄ちゃんがそいつ等に来世を見せてやろうか?」

「ち、違うよ。本当に仲の良い友達はあの二人ってだけで、普通に話すし……」

パタパタと扇ぐように手を振って否定する。ほっと一安心。

「お兄ちゃんは楽しい?」

奈々華がベッドのふちに置いた手を少し滑らせて俺の方ににじり寄る。段々近づいている。

「楽しくないよ。楽しくない。じゃないと留年なんてしないよ」

「友達居ないの?」

「居るよ。俺も二人だけ居るよ。でも他の人たちは知らない人ばっかりだよ」

大学なんてそんなもんだ。

「そっか。でもカナとサナが二人増えたよね?」

「おお。そう言えばそうだな。でも大学は楽しくないよ」

「もう。ちゃんといかないといけないよ?」

奈々華はここらへん理解がある。俺に友達を作って大学生活をエンジョイしなさいとは言わない。実際友達なんて広く浅く作ってもあまり意味はないのかもしれないしね。

「……」

「奈々華?」

急に黙り込んだ奈々華の顔を、俺は少し覗きこむようにして見る。本当に最初に二人でベッドに座った時より大分近づいている。

「お兄ちゃんは彼女居る?」

「え?」

「……恋人」

嫌なところを突いてくる妹だ。

「居ないよ。こんな根暗じゃあ無理だよ」

奈々華の表情を見ていたことを後悔。なんと笑いやがった。抑えてもなおこみ上げる感情に、口元が緩む彼女は俺に恨みでもあるのだろうか。

「何だよ。お前は居るのか?」

「居ないよ! 居ない! 居るわけがないよ」

「何を息巻いているんだ?」

奈々華ははたと我に返ったらしく、決まり悪いのか俯いて黙ってしまった。この子は何を考えているんだろうか。いきなり話をしようなんて言い出して、結局自分から黙ってしまって…… 今日は少し変だ。少しその原因を考えてみたがやはりわからないのでやめると、深い溜息が口から漏れて、どっと疲れる。実際歩きつかれている。

「全く…… 俺はちょっと寝るよ」

俺のことを好いていてくれるのだろうという一本の大きな筋は見えるのだが、それ以外の細かい部分は四つ離れた異性の兄妹。

「じゃあ私も寝る」

大の字になった俺の横へもぞもぞ。

「あっちのベッドを使えよ」

「アレは二人のベッドだから駄目だよ」

「今は居ないんだから良いだろう?」

「居ないからって勝手に使っちゃ駄目だよ」

「……ああそうですかい。もう好きにしてくれ」

目を閉じると、脳みそが引っ張られるみたいに意識が遠くなっていく。


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