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俺たちが最後にビー玉ゲームの世界を離れた地点、つまりホテルの一室だった。木造の古い建物で、歩くとギシギシ軋む床板もある。「ディーカルホテル」という名は、ディーカルさんという老夫婦が切り盛りしているからだそうな。ロビーで受け付けてもらったときに、色々と世間話をしてから部屋に上がったのを覚えている。こっちに送られてきて向こう、俺達兄妹はキョロキョロと室内を見渡していた。珍しいものがあるわけではない。殺風景な室内は壁板がむき出しになっていて、掛け時計がかかっているだけだ。あとはベッドが二つ。ハケルインは近々祭りがあるだとかで、このホテルも予約が一杯で、実は四人で一つの部屋しか取れなかった。そういう話の延長で、先の世間話を経営者のおじいさんおばあさんとしたということだ。奈々華と俺、サナちゃんとカナがそれぞれ一つのベッドで夜を明かした。つまりこの部屋には今、全員が勢ぞろいしていなくてはおかしいのだ。

「そのテーブルの影に隠れてるなんてことはないよな?」

「サナはちっちゃいけど、そこまでちっちゃくはないよ」

小さなテーブルが部屋にはあった。ちゃぶ台と言っても良いくらい小さくて、確かに150センチにも満たない身長のサナちゃんでも隠れる場所はなさそうだった。

「マズイな」

「マズイね」

不毛な確認をして、俺達は二人きりの部屋でしばらく立ち尽くすしかなかった。いつかは来るだろうとは思っていた。全組がバラバラのスケジュールであっちとこっちを行き来しているのだから、組んでいるとは言え、違う組の俺達もいつかはバラバラで招集されることもあるだろうなとは。

「どうする?」

奈々華の目には不安の色。

「後から来るかも知れない。先に来ていて、俺たちが居ないもんだから探しに行ったのかも知れない」

可能性の話。奈々華の不安が消えれば良いなと思って口にした。まだ俺を見上げる彼女は、いつもより格段に幼く頼りなげな目をしている。

「大丈夫だよ。別々によばれていたとしても、今生の別れじゃあるまいし」

その言葉の後におでこから前髪をすくい上げるようにして撫でると、ようやっと奈々華は笑ってくれた。

「俺達も探しに行ってみよう。さっき言ったケースも有り得るしね」

カナやサナちゃんが無闇に俺抜きで動くとも思えないが、この部屋に居てじっとしているよりはいい。アテもなく待っているのは良くない。気が滅入ってしまう。



俺達は外へ出ることにした。入れ違いになってしまうといけないので、書置きはしておいた。二時間くらいで戻るから、部屋で待機しているようにと記した。

ハケルインは中々に大きな街で、メインストリートは道幅も広く、人通りも多く、馬車なんかも走っていた。車はないんだなあ、と二人で文化水準の違いを実感。牛が寝そべっていたり、無許可くさい露天のおっちゃんが石ころを売っていたり。誰も動物が放し飼いにされていても気にした風もなく、そもそも路上での商売に役所の許可なんていらないのかもしれなかった。

「なんかのどかだよね」

「うん。思ってたのとは違うな」

流通の要所とか聞いていたものだから、もっと都会然としているのかと予想していた。これじゃあ今まで見てきた街と大して変わらない。規模が大きいだけという話か。

「まあ同じ大陸の、もっと言えば同じ国の中なんだから劇的な変化はないよね」

奈々華にというより自分に。しかし言いながら国ってあるのかな、とふと疑問。思えばラスクさんにも誰にも聞いていない。正確には聞けていない。ロボットだから気にしなくても大丈夫だろうとは思いながらも、あまり非常識な質問はしたくなかったのだ。例えば日本に居て、どこでも良い、東京や大阪の道行く人に「ここって何ていう国ですか?」と聞いたらば、相手はポカンとなるか、からかわれてると思って無視されるか……

相変わらず舗装されていない道を、ジャリジャリ歩けど歩けど、建物が途切れない。民家が多いのかなと余所見しながら歩いていると、奈々華がぼそり。

「二人とも勝手に出歩いてないよね?」

「……大丈夫だよ。二人とも俺の喧嘩騒動を聞いておいて出歩くほどバカじゃないさ」

何となく、奈々華らしくないなと思った。普段の彼女なら一度納得した事案についてあれこれ思案するよりは自分の目で確認する筈だ。今回で言うと、街を一通り回ってみて何処にも姿が見つからないことを確認して安心する。ちょっとした違和感を抱きながらも、もう一度大丈夫だと重ねてやる。それだけ心配なんだろうと自分で納得する。奈々華も本日二度目の納得をしたのか、黙って頷いて歩を速める。俺もそれに合わせて二人で街を見回った。二人はついぞ見つからなかった。

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