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ポツネンとほったて小屋があった。藁葺の屋根に牧歌的な錆鉄の煙突を立てて、カビか元々かもわからない黒ずんだ木造りの建物部分。およそこの場所に不釣合いな建物に、絶句した。後ろを振り返ると奈々華もやはりポカンと口を開けて、宇宙人でも見たように固まっている。

「あれ、なんだろう?」

しばらく固まっていた奈々華の唇が動く。

「ハウスかな」

「カレー粉を作っているの?」

奈々華も俺も随分余裕だな、と心の中で笑う。どうする? 入ってみるか。あからさまに怪しいけれど。

「行ってみようよ」

奈々華は沼田のお株を奪ったように、考えなしのような調子で言った。だが彼女は馬鹿ではない。どうせこのまま谷底を彷徨っていても突破口は見つからないのだから、なるだけ何でもないような口調で言ったほうが空気が良い。そういうところまで考えての言葉なもんだから俺も鷹揚に「そうだな」と返して、足を向けた。


戸を叩いても返事はなくて、やはり廃墟かと気落ちしそうな気持ちを鼓舞して中に入ってみることにした。入ってみて吃驚した。

薄い灰色の床と壁。それらを簡素な蛍光灯が照らしている。それらは木造りでは勿論なく、近代的な建物を連想させる。いや、言葉にはしたくないが、宇宙船の内部を思った。得体の知れない薄気味の悪さもそれに拍車をかけた。

「うわあ。すごい。全然外見と違うね」

奈々華はやはりのほほんと。ゴーサインらしい。確かに谷底で餓死するのは嫌だ。当分は奈々華のおしっこを飲みでもすれば生き残れるだろうが、そのプランもやはり口には出していない。変態だと思われたら辛い。

宇宙船は随分と縦長の構造になっているらしく、廊下は数十メートル続いた。やはり外見の構造からは明らかにおかしい。ペタンペタンと靴は情けない音を立てるが、俺は何かジリジリと照り返しで足を焼く真夏のアスファルトを歩くように嫌な感触を抱いていた。突然パカッと足元が割れて奈落の底に落ちるんではないか、カチッと気付かないスイッチを踏んで、壁から天井から毒矢が飛んでくるんじゃないかと、気が気でなかった。長い廊下の終わりが見えた。行き止まり。しかし壁に同化した扉がある。ドアノブだけは銀色に輝いていて、いよいよ罠じゃないかと疑心暗鬼が止まらない。

「入ってみようよ。大丈夫だよ。きっと」

気休めだなあ、と苦笑が出るが、この子が言うと本当に大丈夫なんじゃないかと思えてくるから不思議だ。すんなりとドアノブは回り、再び灰色の世界が目に入った。


ただ一つ違うのはそこは小部屋になっていて、部屋の中央には防弾ガラスの間仕切りがあった。向こう側にはどうやっても行けないように部屋全体を二分していた。ドラマなんかで見る、刑務所内の面会室を思った。そして看守よろしく、そのガラスの向こうには椅子に腰掛けた人間がいた。人間としか言い様がないのは、奇天烈な仮面で顔をすっぽり覆い、映画で魔術師が着るような黒いローブを身に纏っていたから。

「おい。なっち。変態がいるぞ」

「大丈夫だよ。お兄ちゃんだって変態なんだから」

なんでバレてんだよ。まあいい…… 話を聞こうと警戒は怠らずにガラスに近寄る。身体に起伏がないので男と仮定する。

「ようこそ。ビー玉ゲームへ」

キてるなあ。やはり男の声だった。

「あの…… 僕達迷子になってしまって、谷底に落っこちちゃって、一命は取り留めたんですけど……」

まさかベッドの上から、学校で勉学に勤しんでいたら、突然ここに居たなんて頭のおかしい真実は話せない。男と正対するようにガラスに向き合う。

「ようこそ。ビー玉ゲームへ」

ダメだ。日本語が通じない。

「知らないか? ビー玉。誰もが子供の頃一度は手に取ったことがあるだろう」

「……はあ」

なっちゃん、助けてくれ。後ろを見ると、奈々華はそ知らぬ顔で男を見下ろしていた。俺の視線に気付かないわけもないのに、観察するように男を見ていた。このガキャ、人をけしかけといて、変なのに捕まったら丸投げしやがった。

「そのビー玉を君たちに集めてもらう」

駄菓子屋に行け。

「ゲーム終了時点で一番多くのビー玉を所持しているチームが優勝となる」

何の話をしているのだ。

「マネーゲームの亜種だな」

男が俺の心を読んだように、ゲームの類型を言った。

「君たちをここに呼んだのは我々だ」

ついにそこまで言ってくれた。最後の堤防が決壊するようなイメージを頭に持った。認めざるを得ない。まーた来ちゃったよ異世界。


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