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奈々華は少ししてから眠ってしまい、しばらく俺は三人の寝顔を見つめていた。昼頃になって皆が起きてきた頃に、太陽の光とは違った白い閃光が俺達を包んだ。


目が慣れてきたと思ったら、知らない場所だった。部屋。フローリングの床と白い壁紙。メタルラックは三段構えで、下の段に本や漫画、真ん中の段に辞書や参考書、上の段には亀とうさぎのぬいぐるみが沢山。勉強机もあって、そっちにはブックスタンドに挟まれた教科書が並んでいる。中ほどには化粧品や手鏡が乱雑に置かれている。端をスタンドライトが噛んでいて、それ自体は変哲のないデザインだったが、何かゴテゴテとデコレーションされている。プリクラなんかも貼っているようだった。カーテンは淡いピンク。ベッドカバーや枕の色もそれに統一されていた。女の子の部屋だ。化粧品や香水の匂い、それに負けない女子の匂い。

「……ウチの部屋みたいっすね」

「へえ」

奈々華も初めて来るのか、キョロキョロと無遠慮に首を動かしている。

「あの、お兄さん。クンクンすんのやめてもらえませんか?」

「はい、スイマセン」

いつの間にか俺は音を立てて鼻を動かしていたらしい。サナちゃんの白眼視。ぞくぞくするぜよ。

「なんだってウチの部屋に?」

カナはサナちゃんを。俺は奈々華を。それぞれ見合って、首を傾げる。今まではそれぞれの家に帰されていたのになあ。そこで俺はそんな疑問も吹っ飛ぶ大事な問題を思い出す。

「そうだ。俺車に乗ってたんだ! どうなった? 車どこだ?」

これだけいい加減な転送をされているようじゃ、かなり不安だ。誤ってクローゼットを開けるのだから、俺は相当動揺している。キャミソールが三着、パーカーが三着、ジーンズ素材のジャケットが一着…… 

「ギャー。何やってんすか! やめろこの変態」

頭にゴスッと重い衝撃。辞典のようなもので殴られたようだ。振り返ると真っ赤な顔したカナが鼻息荒く俺を睨んでいた。


車はカーテンを開くとマンションの駐車場に止まっているのを発見した。誰が車庫入れしたの? やっぱりあのキチガイ仮面の変態達? 嫌な想像は振り払って、とりあえずは気持ちを軽くして、次なる問題に取りかかる。

「ご家族は?」

カナに疑問をふる。彼女は首を横にふる。

「この時間は居ないでしょうね。タク…… ウチの弟拓馬って言うんですけど、あいつも多分外で遊んでるだろうし」

「お母さんは?」

「仕事」

短く返した。にべもなく、彼女が自分の母親にどういった感情を抱いているのか、欠片も察することは出来なかった。

「弟さんはいっつも外で遊んでるの?」

奈々華の質問。

「ウチと遊ぶときもあるけどね。大抵は外で友達と…… 虫でも捕ってるんじゃないかな」

虫の単語のあたりで、眉根を寄せる。彼女は嫌いなのかも知れない。小学生くらいの男の子ということを考えると虫を使って悪戯をされたりするのかもしれない。

「それはいいことだ。虫捕りはいいぞ」

「何がいいんすか?」

「子供の時、いかにバッタやセミを残酷に殺すかで、大人になってからの懐の深さが決まる」

「何それ?」

「真理だよ。大人になってからだと、今度は虫じゃ済まないしね」

適当に繋いだ言葉だったけど、真理と言うのはガチだ。

「ウチは殺してないんだけど?」

「だからお前はダメなんだ」

「私も殺してないよ?」

奈々華。

「私も」

サナちゃん。

「君たちは大丈夫だよ。そもそも女の子と男の子では全然違うからね」

「ウチも女なんですけど? っていうか何なのこの変態は。何でウチだけ差別するの?」

「お前が可愛いからに決まってるだろう?」

そう言って頭をグシグシしてみる。嫌そうな顔を作ってはいるが、口元が微妙に綻んでいる。払いのけられたりはしない。こいつも少しは懐いてきたんだろうか。

「きもいよ」

「そう思うなら手をはねのければいいだろう? てかちょっと嬉しそうだぞ?」

「誰が!」

すいと頭を動かして手から逃れる。そのまま部屋を出て行こうとする。

「どこ行くんだ? ウンコか?」

「死ね! お茶くらい出すってこと」

バタンと強く扉が閉じられて、思わず顔を顰める。

「ふう、口の悪さは直らんなあ」

「今のはお兄ちゃんが悪いってサナが言ってるよ?」

口を開けばデリカシーのない冗談しか出ないんだから、いい加減慣れてもらわないと困る。



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