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カルパッチョ銀行は、沼田の前情報に違わず、外見こそレンガ造りの建物だったが、内装は近代的であった。リノリウムだろうか、ゴムとも樹脂ともつかない微妙な弾力の白い床を踏み、内部を闊歩する。最初に見たホッタテ小屋のような内外の違和感だった。

「マジでATMだな」

ねずみ色の筐体を見つめ、それは銀行の端に三機あった、誰にともなく言った。優しい奈々華が「すごいね」と返してくれた。

画面はタッチパネルになっていて、やはりこの世界の時代設定からはポツンと浮いているような印象だった。指を近づけると「ようこそ、ビー玉ゲームへ」と野太い男声をイメージしたらしい機械音声がした。何でだよ。ていうかもう知ってるよ。心の中で機械を激しく非難してから、メニュー画面に目を落とす。三つほど項目があって、「残金確認及びお引き出し」と「参加者一覧」それに「換金」と言う文字があった。換金…… 換金、換金だと。頭の中で高速でパズルが出来上がるような、清々しい閃きが起きる。思考が繋がる、繋がる。指はその爽快感に連動するように動きを早める。三つ目の「換金」ボタンを押して、次に出てきた画面は年代と国だった。「2009。日本」を探す。脳と目と体が同時にフル回転している。起き抜けに吸うタバコのように俺の全てを活性化させる。

「はや! きも!」

沼田の雑音さえも耳が瞬時に拾い上げ、必要のない罵声だと判断して脳内から切り捨てる。

「お兄ちゃん扱ったことあるの?」

「いや、ないけど」

自分の中の疑問が氷解してしまった。そしてすぐにそれならばと仮定が浮かび、それを実証するような現実が目の前にある。本当にクロスワードの取っ掛かりから、縦も横も斜めも意味が通ったような不思議な高揚がある。疑問とは即ち、ビー玉を貰っても実感がわかないということに起因していた。それはこっちの世界で生活するには必要不可欠のものだが、実際に俺たちが生きる現実は向こうの世界で、それは他の参加者達にも言えることで、実際の益をもたらしているという感覚は味わいがたい。そしてその感覚の鈍重は、参加者同士をけしかけるような真似までしているホスト側としては打開すべきことではないか。そういう疑問がずっと胸の底に居ついていた。だから何らかの策を講じているだろうとは思っていたが……

すぐに探し出した俺の生きる時代の国を選択する。「金:10300円。銀:1102円。銅:502円。青銅:100円」と為替レートが出て、確認ボタンを連打する。痙攣でもしているような指の動きだ。

「お兄ちゃん落ち着いて」

「ビーリングを画面にかざして下さい」

おっさんの機械音声と奈々華の声が被る。残念だが今はおっさんの声を優先させる。手の甲を向けると、幾ら引き出すかが手元のボタンで操作できるようになる。画面は指輪に幾ら入っているのかを示している。金が十二個、銀が五個、銅がゼロ。金のところにカーソルを合わせて10を押す。確認ボタンを連打で押す。もう待ちきれず両手の人差し指を出して滅茶苦茶に押しまくる。「ご利用ありがとうございました。お取り忘れにご注意下さい」と言う紋切り型の注意と共に、機械の現金取り出し口が開く。手首のスナップだけでひったくるように全部摘み上げると、数え始める。見慣れた諭吉、見慣れた野口。

「だから動き速過ぎてうけるからやめてってば」

「お兄ちゃん、周りの人が見てるからやめてってば」

子供は黙ってなさい。手を全く止めずに数えきると、確かに十万と三千円ある。気がつくと腹から声を出して勝ち鬨をあげていた。

「しゃあ、オラー!!」


つまりはそういうことだった。途中換金が出来るということは参加者の戦意高揚には持って来いだ。同時にあざといと思った。人間の欲深さを上手く引き出して、醜い争いを誘っている。趣味が悪い。

どうせ接触する予定はないのだから、参加者一覧はいいだろうと、俺達は銀行を後にした。おなご共が恥ずかしそうにそそくさと出て行くその後を俺は勝ち誇ったような気持ちで追った。借金が返せるだけだけどね。



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