第3話 仲間と呼べる存在
ゴブリンの襲撃から一夜が明けた。
リーネ村は活気に満ちていた。昨日の勝利は、村人たちにとって大きな意味を持っていたのだ。
「これで安心して畑を耕せるな!」
「リオンさんとエリナさんのおかげだ!」
人々が笑い、声を掛け合う。その光景を眺めながら、俺は胸の奥がじんわりと温かくなる。
かつて勇者の一行では、役立たずと罵られ、ただの雑用係と見下されていた俺が、ここでは感謝されている。
それはまるで、夢のような時間だった。
村の広場で休んでいると、エリナがやって来た。
昨日の戦いの疲れを見せず、凛とした瞳で俺を見据える。
「ねえ、リオン。お願いがあるの」
「どうした?」
「私、この村にしばらく残ってもいいかしら」
思わぬ言葉に目を瞬く。
「エリナほどの冒険者なら、もっと大きな街で活動した方が……」
「それでも、私はここにいたいの」
彼女は剣をそっと撫でながら続ける。
「昨日の戦いで分かったわ。この剣が本当に力を発揮できたのは、あなたが研いでくれたから。あなたと一緒にいれば、私はもっと強くなれる。だから……」
真剣な瞳が俺を射抜く。
その言葉は、かつて勇者たちに追放された俺の心に、確かな救いをもたらした。
「……ありがとう、エリナ。俺なんかでよければ、一緒に」
「ええ、よろしくね!」
彼女は微笑み、手を差し出してきた。
その手を握り返した瞬間、俺の胸に“仲間”という言葉がよみがえった。
それからの日々。
エリナは村人たちと馴染み、畑仕事や警備を手伝った。
俺は相変わらず雑用係のように働いたが、不思議なことに俺が関わると、どんな作業でも奇跡が起きた。
壊れかけの井戸を修理すれば、清らかな水が尽きることなく湧き出し、
古びた小屋を直せば、まるで新築のように頑丈に生まれ変わる。
「リオンさん、あんたは神さまに愛されてるんだな!」
「まるで加護を受けているみたいだ!」
村人たちはますます俺を慕った。
だがその一方で、心の奥にわずかな不安も芽生える。
――《汝は“神々の秘宝”を持つ者》
あの声が何度も耳に響いていた。
俺の力は一体何なのか。無自覚のまま使い続けていいものなのか。
疑問は深まるばかりだった。
そんなある日のこと。
エリナが森の道から戻ってきて、険しい顔で報告した。
「リオン、大変よ。近くの街道で“黒い鎧の騎士”を見たの」
「黒い鎧?」
「ただの旅人じゃない。異様な気配を放っていた。しかも……私を見て“力の源は村にある”と呟いたの」
胸がざわつく。
俺の力が外に漏れ始めているのかもしれない。
「村に危険が及ぶかもしれない……」
「だからこそ、私はここに残るわ。あなたを守るために」
エリナはきっぱりと言い切った。
その瞳には揺るぎない決意が宿っている。
俺は深く息を吐いた。
無能と呼ばれ、切り捨てられた俺が、今は誰かに守られている。
だが――守られてばかりではいけない。
「エリナ。ありがとう。でも俺も、この村を守りたい。昨日みたいに、誰かの力になるんだ」
「……うん。その気持ち、大事にして」
彼女が微笑む。
その笑顔は、暗雲立ち込める未来を少しだけ照らす光のように思えた。
夜。
村の外れで焚き火を見つめながら、俺は考えていた。
勇者たちと過ごした日々。
罵声を浴びせられ、無能と断じられた屈辱。
けれど、それがあったからこそ今の俺がいる。
この村で、仲間と呼べる存在と出会い、確かな絆を感じている。
だからこそ、この力をどう使うべきか――答えを探さなければならない。
火の粉が夜空へ舞い上がる。
その先に広がる星々は、まるで俺の未来を試すように瞬いていた。
「……もう逃げない。俺は、この力と向き合う」
小さく呟いたその誓いが、闇に吸い込まれていく。
やがて訪れるであろう試練の気配を胸に感じながら、俺は拳を握りしめた。




