表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
61/71

うんこマン

「いい大人がギャーギャーと泣き叫んであんな大勢の前で盛大に漏らしたくせに、テメェに言われたかぁねぇよ!」


「自分のやったことを棚に上げて、偉そうに説教とかしてんなよ。うんこマンがよぉ!」


「誰も言わねぇけどな、みんな心の中で思ってんだ。『人前でうんこ漏らした奴に言われたくねぇ!』ってな」


「でも、そこをツッコむのはいくら竹原でも『さすがに可哀想かな』って、大人として気を遣ってただけだぞ? なのに、お前ときたら『うんこ漏らし? そんなことありましたっけ?』みたいな顔して何食わぬ顔で座りやがって」


「お前が漏らした事実、絶対無かったことになんてしねぇからな! つーか、うんこ漏らしたくせにここまで偉そうにできるの、ある意味凄いわ」


 俺が内心でボヤいてると、いつの間にか部屋が静かになっている。


「……って、ん? なんだ、どうしたみんな? あれ、竹原……?」


 竹原は顔を真っ赤にしてプルプル震えてるし、他のみんなは口元を手で押さえて肩を震わせてる。


「お、おま、お前ぇ……っ!」

「……あ、まさかまた漏らすのか?」


「も、漏らさねぇよっ!」


 竹原が立ち上がって叫んだ。

 それに合わせて、手錠がじゃらじゃらと鳴る。


「……え?」


 なんだと!?

 こいつ、俺が考えてること……まさか、エスパー……!?


「……貴方ね、全部口から出てたわよ」


 吸血鬼が顔をひくひくさせながら言う。


「あ……マジ?」

「はい。早口で一気にまくし立ててましたよ、望月さん」


 梅野さんも、さっきまでの沈んだ顔が少しニヤけている。

 松下さんと桐生さんも、視線を逸らして肩が小刻みに揺れてる。

 完全に笑いこらえてるやつだ。


「マジか。いや、自分では我慢してたはずなんだけど……漏れちゃってたか! うんこだけに」

「ぶふぅっ!」


 吸血鬼が盛大に吹いた。

 そのまま机に突っ伏して腹を抱えてる。


「ちょ、望月さん、やめてくださいよ!」

「いや、そう言ってめっちゃ笑ってんじゃん」


 梅野さんも口元を手で隠して少し涙目になってるし。


「お、お前ら……っ!」

「いや、そんな凄んでも怖くねぇよ竹原うんこマン。あ、また漏らすのかなって思うだけで」

「うるせぇ! うんこマンって言うな! ガキかテメェは!」

「ガキじゃないよ〜? お前と違ってちゃんとトイレでうんこするし。お前みたいに漏らさないし〜」

「〜〜っ!」


 竹原の顔が茹でダコのように真っ赤で、耳まで赤くなっててウケる。

 手錠の鎖を握りしめてガタガタ震えてるのは怒りか羞恥か、あるいは――便意からか。


「『俺より潔癖な奴がいない』? ギャグで言ってんのか? 少なくともうんこ塗れのお前よりはみんな綺麗だぞ」


「そ、そういう意味じゃねぇ!」


「あ、臭っ! ちょっと口閉じてもらえます? うんこ臭がするんで」

「テメェ、望月ぃぃっ!」


「怖〜い! うんこマンが怒った〜! や〜い、うんこマ〜ン! 悔しかったらトイレでしてみろよ〜!」

「くそがっ! ぶっ殺してやるっ!!」

「はははっ! クソはお前だうんこマン!」


 部屋中が笑いに包まれた。

 松下さんまで小さく肩を震わせてるし、桐生さんは顔を背けてるけど絶対笑ってる。


「……望月さん、そのくらいで勘弁してあげてください。さすがにそれ以上は竹原くんが可哀想です」

「頼む望月さん。も、もうやめてくれ」

「あぁ、すみません。思わず」

「あははははははっ!」


 いや、アンタらも完全に笑ってるじゃん。

 吸血鬼に至っては笑い上戸なのか、腹抱えて転げそうになってる。


「……竹原、すまんな。でもお前が悪いんだぞ。世の中には言って良いことと悪いことがあるんだ。お前も、これで分かっただろ?」

「う、うるせぇ! ぶっ殺してやる!」


「だからすまんて。じゃあお前もあんまりドヤ顔でイキんなよ。漏れるぞ」

「くっ……くそ野郎が!」

「いや、だからそれはお前だって」

「ぶふふぅっ!」


 吸血鬼がまた吹いた。

 こいつ、涙流して笑ってるけど、ここに来てポンコツ感がさらに加速してんな。

 うんこでこんな笑うって小学生か。


「俺を……俺をうんこマンなんて呼ぶんじゃねぇ! 俺はうんこマンじゃない!」

「竹原くん、落ち着きなさい」

「そ、そうだ竹原。誰しも間違いはあるんだ。そんな気にするな。また漏れるぞ」

「うるせぇうるせぇうるせぇっ!!」


 竹原は手錠付きの両手で頭を抱えて、まるで駄々っ子のように頭を振っている。


「えぇ……何なの急に。こいつ、ヤベェ薬でもやってんのか? 怖ぁ」

「貴方がいじめ過ぎるからよ! だいたい貴方、デリカシー無さすぎなの! そういう事言う空気じゃなかったじゃない! もういい大人なんだから、言っていいことと悪いことくらい分かりなさい!」


「俺が悪いのかよ! めちゃくちゃ笑ってたお前に言われたくないわ! そもそも俺はみんなを思ってだなぁ!」

「他人のせいにしないの! タケハラのこと言えないわよ貴方!」


 吸血鬼が完全に理不尽。

 ちょっと「うんこマン」て言っただけだぞ?

 そもそも一番笑い転げてたのお前だし!


「あのー、たぶんなんですけど……」


 急にキレ散らかした竹原に皆がドン引きする中、梅野さんがそっと手を挙げる。


「! 何か知ってるのか、らい……梅野!」

「な、なんですかそのノリ……。えと、慎ちゃん、子供の時も漏らしたことがありまして……」


 出た、梅野さんの幼馴染トーク!

 フォローしてますって顔して、実はさらに追い打ちをかける!

 実は梅野さんが一番根に持ってる説!

 もうやめて! 竹原のライフはゼロよ!


「えぇ……こいつ、ガチの生粋じゃん」

「ええ、まぁ……慎ちゃん、生粋のうんこマンなんですよね」

「……ウメノ、あなたも結構酷いわね」


 そりゃあ生粋のうんこマンの幼馴染なんかやってんだ、嫌にもなるだろ。


「その時もクラスの子の仕掛けたドッキリで……漏らしちゃって。その時からあだ名が……」

「あぁ……うんこマン」

「はい……。それで一時期いじめられて不登校に……」


「トラウマになってるのね、可哀想に……」

「望月さんがピンポイントで抉るから……」


 吸血鬼と梅野さんがジト目で俺を刺してくる。


「貴方、謝りなさいよ」

「そうですよ。いくら慎ちゃんが悪いことをしたからって、こんな酷いこと……」

「何でだよ! お前らなんで竹原に同情してんだよ! これだからトラウマ持ちのめんどくせぇ奴らは!」


 だから俺のせいじゃねぇ!

 俺は何も知らなかったんだ。

 俺は悪くない。

 悪いのは、竹原――そしてうんこだ。




「で、冗談はさておいて……」


 部屋の笑いがようやく収まったところで、俺は咳払いして椅子に腰を下ろした。


 吸血鬼はまだ腹を抱えてるし、梅野さんは涙を拭ってる。

 松下さんと桐生さんは苦笑いで顔を見合わせて、竹原は……まあ、うんこマンは手錠のまま俯いて震えてる。


「……なぁ、竹原」


 俺が声をかけると、竹原がびくりと肩を跳ねさせて顔を上げた。

 目はまだ赤い。涙目か、怒り目か、知らねぇけど。


「なんだ! 俺はうんこマンなんかじゃねぇ! 」


 声は震えてるけど、さっきみたいな勢いはない。

 完全にトーンダウンだ。

 うんこマン、ライフゼロ。


「うん、すまん。言い過ぎた言い過ぎた。で、ちょっと聞きたいんだけどな」

「……なんだよ、詐欺師。他に何か言いたいことでもあんのかよ」


 言いたいことはあるよ。

 うんこマンって叫びたいよ。 


「ああ。竹原、お前さぁ――」



 俺はあえて軽い調子で言う。



「魅了されるのと殺されるの、どっちがいい?」


「は?」


 俺の質問に、竹原は固まった。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ