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ぷるぷる ぼく わるい まものつかい じゃないよ

 今回、松下さんから頼まれた時、すぐに頭の中ではメリットデメリットを考えていた。


 松下さんから頼まれなくても、たぶん俺はここに来ていたと思う。

 だって、『魅了の魔眼』だよ?

 そんなチート能力、誰だって欲しいだろ。


 おまけに『血液魔法』とかいうファンタジー感マシマシのスキルまで出てきたし。

 魔眼に魔法、一気にチート感が増してきたな。


 俺が偵察を引き受けるメリットは、なんたって「魅了」だ。


 俺のスキル『魔物雇用』は、俺と魔物の双方が条件に合意しないと成功しない、なんともクソめんどくさい仕様のスキルだ。


 じゃあ、これに『魅了の魔眼』が追加されたらどうなる?

 そうだね、洗脳だね!

 初手洗脳で雑に雇用できるじゃん!


 やったね! 一気に仲間《道具》が増えるよ!


 どいつもこいつも使えそうな奴は片っ端から魅了してから雇用すればいいのでは、と考えたのだ。


洗脳しちゃえば文句も言わない、こちらの指示を忠実に守る企業戦士が大量に手に入る。

これを使わない手はない!


 いや、わかっている。

 洗脳して雇うなんて会社として、人としても完全にアウトだ。


 だが――残念ながら今は終末なんだわ。


 そんな労働基準法ルールなんて終末には存在しない。


 まぁ、やってる事は宗教とかと同じだろ。

 洗脳されるのが、先か後かの些細な違いだ。

 だったら、手間を省いた方が良いに決まってる。

 コスパだコスパ。


 そして、デメリットは俺が魅了されるリスク。

 あと、敵が魔物じゃなく人間だった場合も、雇用できずに無駄骨になる可能性があった。


 デメリットを考えたらちょっとだけ躊躇したが……やはり、『魅了の魔眼』が惜しかった。


 ……この時点で俺は魅力されてたのかもな……なんつって。


 でも正直、その辺の弱いモブを魅了してキャッキャッしてるような奴なら、どうとでもなるんじゃないかと思った。

 ……やろうと思えば全員殺せそうだし。

 メンドイからやらんけど。


 そうした結果、魅了使いは吸血鬼、俺も魅了されることなく終わって万々歳だ。

 ただ、一つだけ残念なのは、『魅了の魔眼』は「格上には通用しない」ことだ。

 通用するなら、速攻であのオーガを仲間にしたのにな。

 まぁ、レベル上げの重要度が分かったから良しとする。




「ねぇ、スマホ見て何ニヤニヤしてるのよ。急ぐんじゃないの?」


 背後から吸血鬼の声。

 少しだけ拗ねたような、でもどこか楽しそうな口調だ。


「ん? ああ、アンタのステータスを見てたんだよ。行く前に準備だけはしとこうと思って」


「え、ステータス?! 私の? 見たい見たい! 見せてよ!」


「わっ、ちょ、近い! 当たってる! 当たってるから!」


 吸血鬼がガバッと身を乗り出してくる。

 素肌の腕に、柔らかい感触。

 すかさずそこへ神経を全集中!


「おっふ。ふむ……なるほど。今回ばかりは《備考欄》の情報に感謝だな」


「? 何言ってるの?」


「……これが『95』の重さ、か。もはやファンタジーだな。ありがとう」


「……貴方、なんで泣きそうな顔してニヤついてるのよ。ちょっと気持ち悪いわよ?」


 俺は感触を堪能しつつ、スマホを傾けて画面を見せてやる。




 ============


 名前   : なし

 種族   : ヴァンパイア(♀)

 レベル  : 1

 信頼度  : 好みの顔、気になる同僚

 ジョブ  : なし

 能力   : こうげき ☆

        まもり  ☆

        すばやさ ☆

 状態   : 飢餓

 弱点   : 太陽、火

 好み   : 人間の血液

        月夜

        読書

 性格   : 見栄っ張りで繊細

 スキル  : 『吸血』

        『血液魔法』

        『魅了の魔眼』

《備考》


 月の綺麗な夜、お気にのカップで血を飲みながら読書をするのが好き。信じた人間に何度も裏切られ、実験動物にされたり奴隷にされたりと割とエグい過去を持つ。それでも擦れずに生きている、ちょっと健気な吸血鬼の女の子。悪い魔物使いに騙された彼女の運命やいかに!

 ちなみに、コートの下に隠れているのは"95・58・90"のPerfect Body(小杉感)。でも、こう見えて……『処女』だよ!   


 ============



 うん、相変わらずひでぇ。

 いつもより長いし、個人情報がダダ漏れだ。


「悪い魔物使い」って誰だよ、俺は悪くない。

 騙すなんて……俺は嘘は言ってないぞ、本当のことを言ってないだけで。

 ちょっと軽く働いてもらって、用がなくなったらクビにしてスキル欄を真っ白にしてやるだけだ。

 ホワイトホワイト。


「な、な、な」

「ん、どうした?」

「な、なによ、これ」


 吸血鬼が真っ赤になって俺の肩を叩く。

 力が強く、ちょっと痛い。

 夜が近づいたからか、ステータスの弱体化も解除されつつあるのかも。


「あぁ……酷いだろ? なんでか知らんけど毎回こうなんだよ」


「ひ、酷いなんてもんじゃないわよ!」


「だろ? 誰が悪い魔物使いだっての。ちゃんと真っ当な条件で合意したのに騙すとか、人聞きの悪い。もはや、誹謗中傷だろ。開示請求できっかな……」


「そっちじゃないわよ!」


 乙女モード全開。

 顔真っ赤でパシパシ叩いてくるの、めっちゃ可愛いけど肩が痛い。


「な、なんで私の、さ、サイズがっ……」


「サイズ? ……ああ、やはり俺のスカウターに狂いはなかった。戦闘力バストサイズ95、アンタ……やっぱりおっぱいデッカイな! すげぇ!」


「うるさいわねっ! セクハラよ!」


 なんだよ、お前もあれだけ人を煽ってセクハラしてきたくせに。

 攻撃力に比べて防御力が紙すぎるだろ。


「ちょっと! この《備考》って誰が書いたの? 貴方じゃないわよね?!」


「いや、俺じゃねぇよ。……多分、このアプリの開発者とかじゃね? 割と悪意あるAIっぽいやつ」


「悪意どころじゃないわよ! し、しょ、私が処女とか、なんで勝手にっ……!」


「意外だわぁ。あ、いや、配慮無さすぎだよな、ごめんごめん」


「何笑ってるのよ、貴方!」


「いや、気のせい気のせい。今のところ俺しか見ないんだから大丈夫大丈夫」


「大丈夫じゃないわよ! それが一番嫌なのに!」


 いや、お前、顔真っ赤にしてプンプンしてるけど、俺のこと「好みの顔」ってステータスに書いてんじゃん。

 どっちだよ、どっちなんだよおい。


「それ、削除しなさいよ! 貴方のスキルなんだからできるでしょ!」


「無理。できたとしても、俺はしない。俺、部下の労働履歴とか大事にするタイプだから」


「そんな履歴いらないわよっ!」


「はいはい、ほら急いでんだから」



 吸血鬼の段々と強くなっていくパシパシ攻撃を背中で受け流しつつ、俺は返してもらった作業着に袖を通す。


 あ、作業着来たら感触が薄れるじゃん。


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