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面接開始

 パッと見、銀髪の美人なお姉さん。

 どっからどう見ても魔物なんかには見えない。



「あ、こんにちは。すみません、こんな格好で」

「あら、いいのよ……やったのは私だし」

「え……!?」


 おい、マジかよ!

 俺、こんな美人に裸にされたの!?

 一枚一枚服脱がされたの?

 なにそのご褒美!


 「くそっ、起きてりゃよかった! おい、竹原ァ! 起こせよ! 使えねぇな!」

「はぁ!? おま、なに言ってんだ!?」

「かぁ〜っ、これだから今の若い奴はっ! こんなチャンス滅多にないんだぞ! 死ねよお前!」

「はぁぁぁ!?」


 こいつマジで使えねぇ!

 大人なんだからさぁ!

 言われなくてもやれよ!

 こいつ、さっきから文句ばっかじゃねぇか!


「ふふ、貴方、面白い子ね。ちょっと興味が湧いてきたわ」

「あ、どもっす。うっす。恐縮っす」


 やっべ。

 声めっちゃ綺麗。

 超いい匂い。

 超美人じゃん!

 あぁ! 緊張で上手く喋れねぇ!


「あの、おねぇさん、おねぇさん!」

「? 何かしら?」

「アンタ……本当に魔物なんすか?」

「あら……ふふ、気になるの?」

「……おっふ」


 はい、かわいいー

 髪を耳にかきあげつつ笑みを浮かべながら首を傾げる。

 はい、満点!


「それより、私も聞きたいんだけど。……貴方、目を逸らすのね?」

「……おっふ」


 やっぱりそう来るよなぁ。


「私の『魔眼』のこと、知ってるのかしら?」

「……知ってるよ。見たら魅了されるんだろ? だから見ねぇ」

「へぇ……そうなのね」


 女はくすりと笑う。

 その余裕が、妙に腹立つほど綺麗だった。


 この人、大人のおねぇさん感がヤバいな。

 大好物です。

 ありがとう神様。

 神社燃やしたのにマジでありがとう!


「なるほどね。あの神社で、私を《《見抜いた》》のは……あなたね?」


「おい、吸血鬼」


 竹原が口を挟む。

 おい、入ってくんなよ竹原。

 今は二人で喋ってんだよ!


「こいつのスキル、『魔物鑑定』。スマホ越しに見てやがったぞ。お前の正体もバレてる。油断してんじゃねぇよ」


 そう言いながら、竹原はスマホを掲げて見せた。

 俺のスマホの鑑定結果を撮ったのか、画面には例の《鑑定結果》の写真。


 吸血鬼はちらりと見て、小さく息をつく。


「あぁ、なるほど。ごめんなさいね、昼間はどうしても……」

「ちっ、気をつけろよ? 次はないぞ」

「ええ……」 


 竹原がつまらなそうに肩をすくめた。

 梅野さんを見るときのような、人を人と思ってないあの蔑んだ目だ。

 吸血鬼の方はと言うと、逆に申し訳なさそうに謝っている。


 なんだ?

 竹原の方が立場が上なのか……?

 それに、魔物の方が……なんというか人間らしいというか。

 うーん、どっちが魔物か分からんなこれ。


「もう用はねぇな。こいつはただの雑魚だ。さっさと『魅了』して犬にしちまえ」


 吸血鬼がちらりと竹原を見る。


「……分かったわ」

「え、ちょっと待っ――」


 いきなりじゃん!

 もうちょっと話そうよ!


 俺の言葉を遮り、彼女が俺の顎にそっとその細い指先を添えた。


 ――顎クイ。

 え、初めてされた。

 ちょっと、いやかなりドキッてするなこれ。


「……っ!」


 顔を上げさせられる。

 逃げようとしたが、細い指の割に力が強く無理だった。


「いい子だから、こっちを見て」


 紅い瞳が、目の前に。


 燃えさかる炎のような紅い光。

 だけど、氷のような冷たさを放つ。

 人形みたいに整った顔立ち。

 完璧な美しさ。


 なのに――どこか寂しげで……。


 思わず、口が勝手に動いた。


「……うわ、マジでめっちゃかわいいんだけど」


 吸血鬼の動きが止まった。

 ほんの一瞬、表情が固まり――


「なっ……!? あ、貴方、な、何を……言って……」


 顔がわずかに赤くなる。

 え、照れてる?

 いや嘘だろ。


「おい、どうした吸血鬼?」

「い、いえ、べ、別に! な、なんでもないわ! そう、なんでもない!」


 竹原の声に慌てて咳払いし、すぐに平静を装う。


「……あ、貴方ね、そんな格好で口説いてくるとか、も、もう少し考えなさいな」

「あ、はい」

「つ、次はちゃんとした格好で、その、しなさいね! いい!」

「え、はい」


 あれぇ? この人、まさか……。


 訝しむ俺を無視して、彼女は今度は優しく両手で俺の頬を包んだ。


「じ、じゃあ……いくわよ――」


 紅が光る。



 ――《魅了の魔眼》。



 なにかが目から脳に入り込んでくるような、甘い感覚。

 紅い光が視界を埋める。

 頭の奥で、声のような何かが囁いた。


 《私に従いなさい》


 頭の中に吸血鬼の柔らかい声が響く。

 甘く優しい声が、脳味噌を掴んで優しく愛撫するように震える。


《服従し、全てを差し出すの》


 心地良い。

 この甘い声に全てを委ねて蕩けたい。

 そんな思いで頭がいっぱいになる。



《私のものになりなさい。私の、忠実な《《部下》》に》








「……ん? ……『部下』?」








 だが――、違和感。








「……部下……てことは、それ――」








「仕事ってこと? じゃあ――」




 俺の中で、それを拒む何かが弾けた。


 心臓がドクンと鳴って、視界が一瞬白くなり――


「――それ、給料出んの?」




《……はい?》


「業務内容は? 危険はあるの? 月平均残業はどのくらい?」


《え、え?》


「年間休日は? 福利厚生どんな感じ?」 

 

《え、あれ? ちょ、待っ》


「離職率は? 育休取得率とかも知りたいな」


《え、なんで、嘘、あれ、あれ?》


「んー、満足いくお答えがないようですね。では――残念ながら今回はご縁がなかったということで」 


《は?》


「ありがとうございました」



 バチィン!


 光が弾けた。

 衝撃とともに、彼女が一歩退く。


「……っ!?」


 俺は無傷。

 吸血鬼は驚いたように俺を見ている。


「え、え、なに、今の……? 給料……? ご縁……え?」

「おい、どうした? 何やってる」


 竹原の声に反応せず、彼女は明らかに狼狽している。


「え、待って……意味分かんないんだけど。私、ちゃんと魔眼使ったわよね? うん、使った。……え、なんで? なんで効かないの? えぇ……?」

「おいっ! 無視してんな、吸血鬼! 早く魔眼を使え!」


 竹原が声を荒げる。


「あ、うん。えっと、魔眼は、使ったわ。ええ、使ったはず。でも……よく分からない力で弾かれたわ」

「はぁ!? なんだと!? どういうことだ!」


「つまり、失敗ね。私も……意味分からないけど」

「おい吸血鬼! お前、使えねぇなら生かす価値ねぇぞ! 分かってんのか!?」

「うっ、その、ご、ごめんなさい……」


 小さく頭を下げる吸血鬼。

 その姿に、逆に竹原が苛立ったように舌打ちする。


「このおっさんもレベルだけは高いから使えると思って生かしてたけどなぁ……。まぁいい、このまま放っておけ。どうせ餓死するか、魔物に食われて死ぬだろ。俺は一般人と違って忙しいんでね。使えねぇクズに構ってる暇はねぇ」


 吐き捨てるように言って、ドアへ向かう。


「あ……待って! もう一回、もう一回やってみるから!」


 吸血鬼が縋るように手を伸ばす。

 しかし竹原は振り返りもせずに、冷たく言い放った。


「魔物ごときが人間に触るな。穢らわしい」


 そして、乱暴に彼女を突き飛ばす。


「やるなら勝手にやれ、クズが」


 捨て台詞とともにドアが閉まり、重い音が響いた。



 その冷たい言葉に、彼女の顔が凍りつく。


 


 静寂。



 吸血鬼はうつむき、拳を握りしめていた。







 俺は、少し考えて――口を開いた。


「……なぁ、吸血鬼さん」


 吸血鬼が顔を上げる。

 

 俺と視線が重なる。

 涙のような光が、きれいな紅い瞳の奥で揺れた。







「どしたん? 話、聞こか?」

「……え?」



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