ドン◯会議 その1
避難所の奥にある簡易会議室。
机を囲むのは、松下さんに桐生、そして竹原と梅野さんだ。
その中に、なぜか俺。
うん、空気が悪い。
自業自得な気がするが、梅野さんの隣に座るのキツいってぇぇ……。
「集まってもらったのは、今後の対応についてです」
松下さんが淡々と口を開く。
その横で、竹原が露骨に不満そうに腕を組んでいた。
「……松下さん。なんでこいつらまで呼ぶ必要があるんですか。民間人ですよね?」
「竹原、静かに」
桐生が低い声でたしなめるが、竹原は引かない。
「いえ、先輩。俺、言ってること間違ってます? そこに座ってる怪しいやつ、尋問しなくていいんですか?」
「……」
……怪しいやつって俺か?
怪しくないよ、ただちょっと……セクハラかまして自己嫌悪に陥ってるだけ。
出来れば放っといて欲しい……。
「それに――」
さらに、竹原は視線を梅野さんに向ける。
「おい、美鈴。なんでお前がここにいるんだよ」
その声は、明らかに上から見下ろすようなものだった。
威圧感に、梅野さんの肩がビクっと震える。
「あの、その……私も、呼ばれただけで……。ごめんなさい、慎ちゃん……」
「はぁ……お前は何やらせてもダメなんだから、そこで黙って座ってろよ?」
「……え、あの、」
「ちっ、美鈴っ! いいな?」
「その……はい。ごめん、なさい……」
あー……。
なるほどね。
この子の自分を責める癖、たぶんこいつが作ったんだな。
幼馴染って言ってたし、小さい頃からこの調子だったんだろう。
クソだな、こいつ。
「おい、なんだそれ?」
「……はぁ?」
「彼女が謝る必要なんてねぇだろ」
やべ、思わず口に出てた。
でも、しょうがない。
俺はこういう上から物言う偉そうな奴が、マジで嫌いなんだ。
……昔の上司を思い出して。
あ、腹立ってきた。
竹原がこちらを睨む。
「は? 何だよ、お前」
「別に。お前の態度にイラッとしただけだよ。いい歳してその物言いはねぇだろ」
「……はぁ? お前、誰に口きいてんの? 一般庶民が警察に楯突くとか、頭沸いてんのか?」
竹原は口の端を吊り上げニヤニヤと笑う。
前のめりになってこちらを眺める様子は警察というより、もはや輩だ。
「なんだお前。女の前でカッコつけて気に入られようって? どうせ、ソイツの無駄にデカくて気持ち悪い胸に鼻の下伸ばしてんだろ、キモいぞおっさん」
「……」
……はい、その通りでございます!
やべぇ、何も言い返せねぇ。
こんな事ならあそこで梅野さんと話さなきゃ良かった!
いや、でもそれだとあの素晴らしいモノを拝めなかった……くそっ! 俺はどうしたらっ……!
「おい、竹原!」
桐生の声が会議室に鋭く飛ぶ。
「相手は協力者だ。態度を改めろ」
「ちっ……」
竹原は舌打ちしてドカッと椅子に座る。
その音で、美鈴はまた小さく縮こまった。
ほんと、この構図見てるだけで胃が痛ぇ。
「では、話を続けます」
松下さんが軽く咳払いをして話を戻した。
いや、アンタもなんか言えよ。
アンタがトップだろうが!
この落ち着き、長年現場を回してきた癖なんだろうけど、冷静すぎて腹立つな。
「昨夜、そして今日。避難希望者の一部がここを追い出された件はご存じでしょう」
俺と梅野さんが頷く。
「その追い出された者たちが、現在この避難所への襲撃を計画している可能性が高いです」
「また物資泥棒か……」
桐生が低く呟く。
「す、すみません。そんなの、どうやって分かったんですか?」
梅野さんが小さく手を挙げて尋ねる。
「部下の一人に、遠距離で会話を拾えるスキル持ちがいます。その信頼性は高い。尾行、監視をしていたところ、十数人規模。恐らく今夜にも動くとのことです」
「マジかよ……」
「ええ、なんとも嘆かわしいことです」
俺が思わず呟くと、松下が頷いた。
でも、俺は内心で別のところに驚いていた。
スキルで会話を盗み聞きできるとか……怖すぎだろ。
あれ? もしかして、俺と梅野さんのセクハラ会話も聞かれてたんじゃ……?
うわ、最悪じゃん。
社会的死、再び。
「それで――あなたたちを呼んだ理由ですが」
松下さんの目が、俺に真っすぐ向いた。
眼差しがいやに硬い。
なにか迷ってるような……。
「本来なら、一般の方にお願いすることではありません。ですが、人手が圧倒的に足りない。避難所の守りを固めるにも、私たち警察官だけでは手が回らないのです」
「……と、言うと?」
「ええ。あらかた魔物の掃討は終わりましたが、まだ周辺には出現の兆候がある。彼らが襲ってきた場合、魔物との連携もあり得る。だからこそ人一倍、《《力》》のあるあなたの協力が必要なんです」
「つまり、手伝えってことですよね? いやいや、俺も力って言っても一般人なんですけど」
「分かっています。だからこそ、《《お願い》》なんです。私も、守るべき一般の方に危険なことを頼むのは本意ではありません。……ただ、あなたがいてくだされば、被害を最小限に抑えられる可能性がある。怪我をしたり、最悪死ぬ人もいるかもしれない。それを防げるんですよ」
「……」
……そういう言い方、ズルくない?
ここで断ったら、完璧に俺が悪者になるパターンじゃん。
それで何かあったら絶対あとでモヤモヤするだろうし。
松下の口元がわずかに緩んだ。
「性格を見れば分かります。あなたは、見捨てることができない人だ。だからこそ、こうして頼んでいます」
……え? いや。普通にできるけど?
平気で見捨てるよ?
なんなら、今日も何人か見捨てたよ?
松下さんの謎の俺への過大評価。
一方で、竹原は机をドンと叩いた。
「ちょっと待ってください、松下さん! こんな素人に頼るとか危険すぎますよ! こいつらどうせ、ビビって足引っ張るのがオチです!」
「……竹原、誰に向かって口を利いてる」
桐生の鋭い声に一瞬怯むも、竹原は立ち上がり俺を指差し睨みつける。
おい、人に指さすなって習わなかったのか?
本当、態度悪いなこいつ。
「っ! で、でも、事実、こいつのステータス見れなかったじゃないですか! こいつも奴らの仲間かもしれない! スパイですよ、こいつ!」
「竹原! いい加減にしろ!」
「でもっ……!」
桐生も立ち上がる。
つか、この人背が高いなぁ。
180以上あるんじゃないか?
おまけに顔も厳ついし、こんなんに詰められたら俺だったらチビりそう……。
「……竹原くん」
松下さんの落ち着いた声。
「人手はすべて戦力です。……扱いを誤らないように」
「は、はい……」
そのやり取りを見ながら、俺は軽く頭を掻いた。
いや、アンタの部下なんだけど。
もっと教育しっかりしろよ。
なに、冷静沈着なできる上司ぶってんの?
「さて、望月さん。どうでしょう? 我々に協力していただけませんか?」
「えっと……」
手伝うのは……正直、ダルい。
人間相手とか面倒臭いしかないじゃん。
ここの避難所がどうなろうと知ったこっちゃない、てのが本音だ。
「……少し、考えさせてもらっていいですか?」
そう言った瞬間、また竹原が吠える。
「はぁ!? お前、松下さんが頼んでんだぞ! なんだその態度は!」
「はぁ……うるせぇな。お前、さっきから声デケェんだよ。黙れ」
「なっ!? お前、今何つった!?」
こいつ、マジでウザいな。
まだ断ったわけじゃないんだから、ゴチャゴチャ言わずに黙ってろよ。鬱陶しい。
俺は立ち上がって竹原を見下ろす。
あ、意外と背が低いな、こいつ。
「……アンタ、竹原って言ったか?」
「な、なんだよ」
「さっきから偉そうに吠えてるけど、見てて痛ぇんだよ。社会人なら黙って座ってろ」
「っ……!? 俺は『警察官』だぞ! レベルも8だ! お前みたいなゴミが何を言ってんだ!」
「うん、数字誇るやつほど中身ないって知ってる?」
「テメェ……!」
なんでこいつ、こんなに必死なんだ?
こっちは別にアンタと競う気もないんだけど。
「俺もさぁ、別に……気が長い方じゃないんだよ」
淡々と告げると、竹原がピタッと黙った。
目が泳いでる。
いいねぇ、その顔。
弱い犬ほど吠えるって言うけど、吠えすぎると息切れするんだな。
「っ……うるせぇっ! 俺は、もう魔物だって何匹も倒してんだ! お前なんかにっ……」
「そうかそうか、すごいなぁ。で? だからなんだよ」
「ぐっ……! お前ぇっ!」
怒鳴り返してきたけど、さっきより声が小さい。
机を叩いて立ち上がる竹原。
お、やるか?
ゴブ太郎直伝、先制斬りしちゃうぞ?
もう、限界だし。空気が。
椅子が倒れる音が響く。
瞬間――
「――もうやめてくださいっ!!」
梅野さんの声が、会議室を震わせた。




