スライムが 二匹 あらわれた!
「……人を、殺したか?」
「ええ。ここに来るまでに、人を殺しましたか?」
「えっと、殺してませんけど?」
コイツはいきなり何言ってんだ?
「……そうですか。質問に答えてくれてありがとうございます」
「あの、今のはどういう……?」
「いえ、ただの確認ですよ。他意はないので安心してください」
「はぁ……」
いや、このタイミングで聞くって、絶対なんかあんだろ。
このおっさん、無意味な言動はしなさそうなタイプだよな。
何か意味があるはず……。
「あの、松下さん……」
「ああ、梅野くん。もういいですよ、彼は、少し気になることはありますが、まぁ大丈夫でしょう。ステータスも見せてもらいましたし。あなたも定位置に……いえ、そろそろ休憩にしてください。朝からずっと手伝ってもらいましたからね」
「あ、えっと、はい。分かりました」
「望月さん、あなたも中に入ってください。歓迎しますよ」
「あ、じゃあ私が案内しますね。望月さん、どうぞ」
「え、ええ……ありがとうございます」
そうして俺は、梅野に案内されながら避難所の中へと足を踏み入れた。
☆
中は思ってたよりも整っていた。
レジ付近は受付や仕切りで塞がれ、通路には簡易ベッドと段ボールの壁。
棚にはところ狭しと商品が収まっている。
さすがド◯キ、ホントになんでもあるな。
あとは、疲れ切った避難民たちがそこかしこで横になってる。
テレビで見たことのある、まさに避難所って感じだ。少し賑やかだけど。
「この辺が寝床になってます。奥の通路はスタッフ専用なので、入らないようにしてくださいね」
「なるほど……思ったより秩序ありますね」
「はい。警察の方が中心になって整理してくれてて。自衛官の方も何人かいらっしゃいますけど、やっぱり制服の警察の人がいると落ち着くみたいです」
「そりゃそうでしょうね」
梅野は小柄で、口調もやわらかい。
フワッしたワンピースに薄いパーカーを羽織ってて、お嬢様って感じの女の子だ。
顔を見てると常に困り顔で、態度も遠慮がち。
背筋も縮こまっててずっと猫背だし、なんか無理して平静を装ってる感じだ。
「一通りご案内できたと思います。……あの、少し休憩しませんか? 私、喉乾いちゃって」
「いいですよ。案内ありがとうございました」
そうして俺たちは、隅に設けられた小さな休憩スペースに腰を下ろした。
棚から出したミネラルウォーターを渡され、軽く礼を言う。
「……さっきは、すみませんでした」
「ん?」
「慎ちゃ……竹原さんのこととか……勝手に鑑定しようとしたこととか。全部、私が悪いです」
「ああ、それ。気にしてませんよ。ああいうタイプには慣れてますんで。鑑定も、結果的に見れなかったわけだし」
うん、慎ちゃんの事はどうでもいい。
別に鑑定が成功してても特に不都合はない。
ただ、勝手に見られたらちょっとムカつくってだけで。
「……はい。初めてなんです、あんなふうに弾かれたの」
「たしか、レベル差、でしたっけ?」
「たぶん。私、今レベル4なんです。通学途中に車で魔物とぶつかっちゃって。それでたまたまレベルが上がって……」
「なるほど」
この子、自分から魔物を殺せるタイプに見えないもんな。
この見た目で率先して殺しに行ってたら怖いわ。
いや、それはそれで唆るものが……。
まぁ、どちらかというとテンパってる内にサクッと殺されるタイプだ。
「望月さんのレベルって……さっき見ちゃいましたけど、かなり高いですよね。あれだけ離れてたら鑑定が弾かれるのも納得です」
「運が良かっただけですよ。それに昨日は……まだ仲間もいましたしね。ほとんどソイツのおかげです」
「仲間……」
うん、今の俺はゴブ太郎のお陰で生きていると言っても過言ではない。
アイツが命令無視してゴブリン刈りをしたのも、今では感謝している。
アレがあったからこんなにレベルアップしたわけだし。
「昨日、ソイツと一緒にたくさんの魔物を狩ったんですよ。格上の魔物とも戦ったりしてね。俺一人じゃ、たぶん死んでました」
そう言って笑うと、梅野は少しだけ驚いたように目を丸くした。
でもすぐに、少し寂しそうな笑みを浮かべる。
「……すごいですね。私、怖くて……外に出られなくて。ここで、みんなの手伝いしてるだけなんです。レベルも、『鑑定』してたら気付いたら上がっただけで……」
「いや、それはそれで大事ですよ。避難所が回ってるのは、こういう人たちがいるからだと思うし」
「……ありがとうございます」
小さく頭を下げる梅野。
その仕草が、妙に丁寧で。
軽い気持ちでここに来た自分がなんか恥ずかしくなってきた。
「私は、昔から何をやってもダメで……。良かれと思ってやったことが、みんなの迷惑になったり。ここでも、最初は色々手伝おうと思ったんです。でも、慎ちゃんに、お前はグズなんだから大人しくしとけって」
「うわぁ……、それはさすがに酷ぇ」
アイツ、マジでモラハラ野郎じゃん。
こんな可愛い子に何言ってんだ。
あとで、挨拶《先制斬り》しとかなきゃか?
「はい……私は、何やっても上手くいかない、グズなんです。だから、『鑑定』で人のステータス見れるって分かった時は、嬉しかったんです。これで、役立たずの私でも、少しはみんなの役に立てるかなって……。でも、レベルが低いと弾かれちゃうのが分かったんで、その……」
いや、酷いってそっちの意味じゃないんだが。
この子、拗らせてんなぁ。
「ああ、なるほど。これから先、人のレベルはどんどん上がっていくかもしれない。そうしたら、てことですね?」
「はい……、私、また何も……」
梅野さんは涙声でそう溢すと、俯いて黙ってしまった。
うーん、どうしよう。
このまま放置でもいいけど……ちょっと可哀想にも思う。
俺も、何も持っていないただのモブだし。
ここまでではないけど、少しはその気持ちも分かるっちゃ分かる。
コンプレックスってのは、色々メンドイんだ。
コンプレックス、コンプレックスね……。
しっかし、すげぇ猫背だな、この子。
猫背すぎて顔が腹にくっつくんじゃないか?
……ん?
待て。え、待て待て待て。
え、嘘でしょ?
コイツ、マジか!
「ぐすっ、あの、望月さん。すみません、こんな……」
「おっぱ……ごほん。梅野さん、梅野さん。そんな気にすることないですよ。世の中、みんなそれぞれ役割ってのがあるんです」
「役割……?」
「そう、何ていうのかな、適材適所っていうか。そんな気張らなくても、やれることをやりゃいいんです。ゲームとかでもそうでしょ? あ、ゲームやったりします?」
「あ……はい。ゲームは好きです、RPGとかやりますね」
「お、いいね! じゃあ、分かるでしょ? 戦いが得意なやつもいれば支援が得意なやつもいる。ゲームみたいなもんなんですよ。実際、今はゲームっぽい世界になったしね」
「ゲーム、ですか……」
「そう、もっと簡単に考えればいいんですよ。自分にできることをやる。それでいいんです。梅野さんは、特に」
「でも……私はまた失敗しちゃって……」
「『鑑定』ですか? それはたまたまです。たまたま、運悪く、俺みたいなおかしいのに当たっちゃっただけ。現に、俺以外はちゃんと『鑑定』できてたんでしょ?」
「えと、はい……」
「じゃあ、上出来です。だいたい、ゲームでもラノベでも、『鑑定』なんて当たりスキルですよ? それ持ってるだけでマウント取れるんだから。むしろ、誇らなきゃ!」
「そう、ですか……?」
「そうそう! それに失敗って言うけどね、俺にとっては成功だよ」
「え……? あの、どういう……?」
「君みたいな素晴らしいおっ……女の子と知り合えるきっかけになったから」
「……え。……え? あ……それは、私が『鑑定』持ち、だからですよね?」
「違う。スキルは関係ない。こうやって、梅野さんと仲良くなれた。それが俺にとってはなによりの成功なんだ」
「え……? え、え、な、何ですか、急に、そんな」
「俺がいうのもなんだけどね、もっと自信持っていいと思う。梅野さん、可愛いし。なにより、立派だ!」
「え、かわ……? っんな!? な、なに言ってんですか!? 私なんて、そんな、」
「それ。その私なんて、ての、やめたほうがいいよ。そう自分を卑下するもんじゃない。君は立派だよ。マジで。凄い。凄いんだ!」
「え、えぇ、……? え、と、あり、ありがとうございます?」
そう、立派だ。
彼女は今まで俺が見た中で、一番立派だと言っても過言ではない。
まさか、こんなところにこんな逸材が!
これは是非とも、是非ともお近づきになりたい!
「あ、あの、なんか、フォローしてもらったみたいで……あの、ありがとうございます」
俺の適当なあり合わせのフォローに、梅野さんが顔を綻ばせ控えめに笑う。
「いや、こっちもこんなありきたりなことしか言えなくてすまんね。あまり人付き合いとか得意な方じゃなくてさ」
「いえいえ! その、ありがとうございます。望月さんのお陰で、少しだけ元気になれました」
彼女は礼を言って顔を上げる。
さっきよりも胸を張って、表情も気持ち明るめだ。
「はは、それなら良かったよ。でも、そうやって顔を上げて胸を張ったほうが、ウジウジ下を向いてるより全然いいと思う……っな!?」
な、なん……だと……!?
まさか、俺が目測を見誤るとはっ……!
確かに、この子は立派だと思っていた。
だが、実際は、その遥か上をいっていた、だと!?
こんな可愛い顔して、こんな危険なモノを持ってるだなんて……。
「あの、どうしました? 望月さん?」
この子――
「デッッッッッ!」
おっぱい、メッチャデカい。




