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優位になるとイキる。それがモブ

 軽トラに戻って、荷台を漁る。

 金属バットを脇に抱えて、火炎瓶をリュックにガチャガチャ詰め込んで戦場へと急ぐ。


 肺が痛い。

 息がまだ苦しい。

 さっきのホブの連続腹パンで、内臓ごとひしゃげたかと思った。

 マジでジャ◯プが無かったら、腹に穴が空いていたかもしれない。

 ありがとう、ジ◯ンプ!

 いや、マジで!


「あの筋肉バカ、今度こそ膝を砕いてやる。そんで膝ごと燃やして、ホブの姿焼きだ!」



 駐車場に戻ると、ホブゴブリンは目から涙をダラダラ流し、膝を庇うように立ち上がっていた。

 ゴブ太郎と姉ゴブの猛攻をなんとか凌いでいるけど、あの筋肉野郎まだ余裕そうじゃねぇか!


「ゴブ太郎!」

「っ! ゴブ!」


 ゴブ太郎が血まみれの顔で振り返り、力強く頷く。

 満身創痍でボロ雑巾みたいなのに、目はメラメラと燃えてガンギマリである。

 ……こいつ、ほんと根性あるなぁ。


 ゴブ太郎が振り回されるホブの『鉄腕』を紙一重で掻い潜り、隙をついてナイフをズブっと膝に突き立てる。


「ほぶごぶぁぁぁ!?」

「ナイス! おら、おかわりだ!」


 俺は全力で駆けて、刺さってるナイフの柄目掛けて金属バットをフルスイング!


 ガキィィン!


 金属と刃が共鳴する甲高い音。

 ナイフがさらに膝にねじ込まれ、ホブが呻いた。


「ほぶぅぅっ!?」


 デカブツの顔が苦痛に歪む。

 よっしゃ! ざまぁみろ!


 ホブの膝がガクンと沈み、しゃがみ込んで動きが止まる。


「姉ゴブ、今だ! そっちから抑えろ!」

「ごぶっ……!」


 姉ゴブが溜まりに溜まった恨みを晴らすように、ナイフを握って執拗にグリグリと膝に押し込む。


「ごぶ、ごぶっ、ごぶぅっ……!」


 涙を流しながら刺さったナイフを捻じる姉ゴブ。

 正直、絵面が怖ぇ!


 ゴブ太郎といいコイツラといい、なんでこんな感じなん?


 ホブの膝から血がドバドバ吹き出し、その巨体が叫び声とともに傾く。

 そして、ホームランチャンスを逃さぬべく、俺は助走をつけて反対の膝にバットをフルスイング!


 ゴキーンっ!


「ほっぶぁぁぁっ!?」


 甲高い爽快な音とともに、ホブの悲鳴が駐車場に響き渡る。


「ははっ! いい音! 『鋼の肉体』が聞いて呆れるなぁ、おい!」

「ほぶぅ、ほぶぅ……っ!」


 ホブは溢れ出る体液で顔中ぐしゃぐしゃ、這うように逃げ出そうと藻掻く。


「んっんー? おいおい、さんざん人の腹殴りやがったくせに逃げんなよ! チュートリアル魔物に毛が生えただけの雑魚のくせによぉ! 逃げんなら、これもお土産に持ってけよ!」


 俺はリュックから火炎瓶をジャジャーンと取り出す。

 ライターで布に火をつけ――


「はは、ほら! これが俺の、火魔法だぁ!」


 這いつくばってるホブに投擲!


 ガシャーン! 

 ボッ!!


「フハハ、燃えろ燃えろぉ! 汚物は消毒だぁぁぁぁッ!!」


 火炎瓶が割れて、辺りが一瞬にして火の海だ。

 ホブの体を炎が舐め、赤黒い煙がモクモクと上がる。


「っ……!? ほぶ、ほぶ、ぼぶぅぅ!?」


 あ、これ……楽しっ!

 いやぁ、火炎瓶て一度投げてみたかったんだよなぁ!

 ゲームだと何回も使ったことあるけど、現実だとそうはいかんからな!

 うーん、爽快感!


「そぉーら、おかわりだ! 遠慮なく持ってけ!」


 ぽい、ガシャーン! ボォウ! 炎!

 ぽい、ガシャーン! ボォウ! 炎炎!


 ホブの全身が火達磨になる。

 派手な腰蓑は燃えつき、筋肉バカご自慢の立派な筋肉が赤黒く焼け焦げて見る影もない。


 ……うわ、臭っ!

 焼け焦げた肉の匂いがツーンと鼻にくるな。


「……ゴブぅ」

「ご、ごぶ……」


 横でゴブ太郎と姉ゴブが引いてる。

 目を丸くして、ブサイクな顔が「うわぁ……」ってドン引きだ。


「おい、なんだよその顔! 誰のせいでこうなったと思ってんだ! 俺だってな、魔物とはいえ生き物を火炎瓶で燃やすとか、そんな鬼畜なことしたくないの!」


 もう一本追加〜! そぉーれ!


 ぽい、ガシャーン! ボッ!


「ほぎゃぁっ!?」


「でもな、部下の尻拭いのために仕方なくやってんの! だから、お前らもドン引きしてないで手伝えよ!」


 ……なんだよ、火炎瓶なんて火魔法みたいなもんだろ? お前らファンタジー生物なんだから見慣れてんじゃねぇの?


「……ゴブ」

「……ごぶ」


 2体のゴブリンから気まずい視線を無視し、さらにぽいぽいと火炎瓶を投げつける。


 火達磨になりながらも、ホブはまだピクピク動いている。

 膝にはナイフが深々と刺さっており、反対の膝もホームランされて粉砕してるってのに、タフな野郎だ。

 この筋肉も見かけ倒しじゃないってことか。


「そろそろ、光になってくんねぇかな? 経験値よこせ経験値!」


 あんなに痛い目にあったんだ、たくさん貰わないと割に合わんぞ。


 そう叫んだ瞬間、ホブの目がギラリと光った。


「ほ、ほぶ……う……!」


 低く唸る声が、急に不気味な響きに変わる。

 やべぇ、なんか嫌な予感が――


「――ほぶぅぅぅぅぅぅぅぅぅっう」


 ホブゴブリンが突然、炎の中から雄叫びを上げた。

 バカでかい声とともに衝撃波が駐車場を揺らし、辺りまとめて吹き飛ばす。


「うぉぉぉっ!?」

「ゴブ……っ!」

「……ごぶ!?」


 俺、ゴブ太郎、姉ゴブ――3人とも吹き飛ばされて地面をゴロゴロと転がる。

 耳がキーンと鳴り、頭がクラクラしてくる。


「くっそ、なんだ!? ただの叫び声でこんなふっ飛ばされた!?」


 そういえば、こいつのスキル欄に『咆哮』ってあったけど、それか!


 地面に叩きつけられて、咳き込みながら顔を上げる。


 ホブゴブリンが立っていた。

 燃えながら、なお立ち上がってる。

 全身大やけどで、もう全身グチャグチャなのにまだ動くのかよ!?


「ゴブ!?」

「……ごぶっ!?」


 ゴブ太郎と姞ゴブも目を丸くしてホブを睨む。

 炎のせいで皮膚がただれてるのに、筋肉は膨れ上がったままだ。


「っ!」


 俺の目ととホブの血走った目が合う。

 こいつ、こんな状態でもまだ戦う気か!?

 そう思った

 だが違った。


 ホブは俺たちに襲いかかるどころか、フラフラと駐車場の外へ向かって走り出す。


「……は!? おい、逃げんのかよ!? 逃げんな、筋肉バカ! チュートリアルボスらしく最後まで戦えよ!」


 俺の叫びを無視して、ホブは炎をまとったまま駐車場の出口へ突っ込んでいく。


 くそ、まさか逃げ出すとはっ!

 このまま逃げられて回復でもされたら、経験値どころか逆恨みされて追っかけられるかもしれない。


 急いで立ち上がって、ホブゴブリンを追いかけようと駆け出すも、視線の先には――、


「……あ、やっべ」


 俺が置いてきた軽トラだ!

 荷台にはガソリンのポリタンク、ガスボンベ、食用油、小麦粉……とにかく燃えそうなもんがたらふく積んであるお手製軽トラ爆弾!


 火が付いたまんまのホブが、このまま軽トラに近づいたら……、


「……マズいぞ」

「ゴブ?」

「……ごぶ?」


 急に立ち止まった俺にゴブリンたちが駆け寄ってくる。

 二人はまだ気づいてないのか、「どうしたの?」ってブッサイクな顔で聞いてくる。


「マズい……マズいマズいマズい! おい、逃げろ!」


 ゴブ太郎と姉ゴブに叫びながら、俺は二人を抱えてアパートの陰に飛び込み、伏せる。

 鉄筋コンクリート造りのアパートなら大丈夫だろ!

 頼むぞ、家賃高いんだから!






 一瞬の静寂。




 そして――















 カッ!








 閃光。

 爆音。

 衝撃。

 熱。





 俺お手製の軽トラ爆弾が、爆発した。

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