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4話 歯車と迷い

地図によるとギアの街から一番近い所にあった街は『シャンテ』という名前らしい。


「とりあえずその跡地だけでも見つかればいい、何か持って帰れそうなものがあったら持ってきてくれ。」


ケント爺は簡単に言ってくれたが、さっきケント爺が言ったように街の出入りは自由には出来ない。


この街の商人ですら外からやってくる行商人と取引をするだけで街の外には出ないし、その行商人だってギアの街の貴族に雇われたただの運び屋と言ってもいいようなものだった。


よくよく考えるとここまで人の出入りに気を配るのは何かあるからなのだろう。と思いながらロイドはとにかくこの街から出る方法を考えていた。


「街の端っこは全部塀で囲ってあるし、唯一の門は見張りがいるし…どうしたもんかなぁ」


「あ、外に出る方法ならあるから心配するな」


ぶつぶつと呟くロイドにケント爺はカラッとした調子で言った。


「え?あるの?」


「鉱山で使ってる機械を貸してもらってな。で、トンネルを掘った。」


「掘ったって…ケント爺さん一人で?」


「馬鹿言うなウィントだよ、お前の親父。」


「と、父さん?」


「あぁ、頼んでみたらあっという間にやってくれた。ロイドがいつも世話になってるからこれくらいなんともないって言ってな」


あまり口数が多くなく、一見取っつきづらそうで真面目な自分の父親がそんな事をするとは思えなかった。


しかし、息子が暇さえあれば遊びに行っている家の人の頼みなら、とやってくれるかもしれない。


「帰ったら聞いてみようかな。でもばれたらまずいんじゃない…?」


「んなもん、ばれなきゃいいだけだ。簡単だろう」


「えー…」


「見張りと言っても今まで外に出ようなんて奴がいなかったんだ。そんな奴いると思ってないし、大体やる気もないだろうからばれやしない」


「捕まったらどうなるのかなぁ…」


「捕まらんから安心しろ!男ならちゃっちゃと行って何か見つけてこい!」


まだ行くとも言ってないのに…と嘆きながらケント爺と話しあった結果、準備を進めて今夜決行ということになった。


ロイドの貴重な休日は外の世界の探索に充てられた。


掘ってもらった抜け穴は目立たないところにあるが、念の為街に帰ってくるのはその次の日の明け方にした。


機械の駆動音は昼間なら街の喧騒にまぎれてそれほど大きく感じられないが、街全体が寝静まる時間まで機械が動いているのは次の日の仕事にも影響しかねないということで働いている者は皆家のベッドの中だ。


それなら見つかる事もないだろうというケント爺の意見だった。


「じゃあ、準備を整えてくるから夜になったらまた来るよ」


話がまとまった所でロイドは一度家に帰ることにした。


一応、両親にも話しておかなくてはいけないだろうし、父にトンネルの件でも聞いておきたい事があった。


「ただいまー」


ロイドの両親、ウィントとハルが家に帰ってくるのは夕方の日が暮れる前だ。


それまでに簡単に荷物をまとめておこうと思い自分の部屋に向かう。


「いいのかなぁ街の外に出ちゃっても…」


これまでの生活は街の外に目が向かなくても何一つ困ることは無かったのだ。


それでいいのではないか。


このままの生活を続けることは無理なのか。


ケント爺は「ギアは歪んだ街だ」と言っていた。


この街で生まれてこの街で育ったロイドには何が歪んでいてそれがどう歪んでいるのかを説明されたっていまいち実感が湧かない。


多分それは父も母もそうだろうと思う。


ここに住んでいる人はここで生まれてここで育った人達なのだ。


この街にはこの街の在り方があってそこには無意識にルールがある。


誰もそんなことは思っていないだろう。


そもそも頭の片すみにだってないと思う。


「街の外の事を考えてはいけない」と。


自分は今、その枠を踏み越えて何かを見ようとしている。


それは許される事なのか。


それは正しい事なのか。


「んんー考えても仕方がないんだけど…うーん」


悶々とした何かを抱えたまま「外」へと行くための準備をする。


そうしているうちに母が帰ってきて、時間が経たない内に父も帰ってきた。


「おかえり、父さん母さん」


「ロイド、帰ってたのか」


いつもなら夕飯時に少し遅れて帰宅する息子が家にいる事に少し驚いた様子でウィントが答えた。


「うん、父さん少し話があるんだけど」


「あぁ、いいよ」


「ケント爺さんに頼まれて街の外に続くトンネルを掘ったって本当?」


「あぁそれか、掘ったよ。どうかしたのか?」


「なんで?」


「なんでって言ってもなぁ。まぁ強いて言うならケント爺さんなら何か面白い事を考えて頼みに来たんだろうなぁって思っただけだ」


ロイドは、おどけた様子もなく静かに話すウィントに少し肩すかしを食らったような気になる。


「でも街の外ってさ…今まで全然気にしてこなかったけど街の外がどうなってるか誰も知らないんだ。それってつまり外の世界に触れちゃいけないって事なんじゃないの?」


「そりゃあ、法がそう定めているのなら俺だってトンネルは掘らないさ。でもそうじゃない。


ケント爺さんから話は聞いているよ。街の外に行くんだろう?」


「うん。そうだけど…それが誰かに知られて罰せられるような事ってないのかな」


「確かに今までこの街で外に目を向けるのは誰も考えていなかったことだ。多分貴族達がそういう風に街を作り上げたんだろう。


でもだからって外を見てはいけないとは誰も言っていない。それにな」


穏やかに、そして優しく話すウィントは少し子供に戻ったような顔でロイドの目を見ながら言った。


「それにそんなもの、ばれなければいいんだ。ばれなければ」


「ははは、そっか」


ウィントの言葉にもやもやとしてどこか引っかかっていたものが綺麗に取れた気がした。


父さんが言うんだ、それでいいじゃないか。


それにケント爺さんは頭がいいし、いい加減な事は言わない。


良くは分からないが何か確信を持って僕に行けと言ったに違いない。


ケント爺さんがそういう人だって事は、僕はそれをよく知っているじゃないか。


そう思い直してロイドは言った。


「今日の夜に行ってくるよ。明日は仕事もないし帰るのは明後日の明け方になると思う」


「そうか、気をつけていくんだぞ」


「うん、ありがとう」


そう言ってロイドは料理を運んできた母を交えて少し早目の夕食を取った。

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