影の動き
旅籠町の夜。
家々は戸を閉ざし、静寂の中で灯りだけがぼんやりと漏れていた。
表向きは眠りについているようで、しかし町は眠ってはいなかった。
⸻
暗がりの集会
裏路地の奥。
人目につかぬ倉庫に、数人の影が集まっていた。
松明の炎が揺れ、壁に映る影は不気味に伸びる。
「……広場の分裂は利用できる」
「旗を掲げると言うなら、それを大義に人を集めろ」
声は低く抑えられていたが、どれも確信に満ちていた。
⸻
利用しようとする者たち
「支持派と反対派をぶつければ、町は自分から血を流す。
その混乱で、我らが動く余地が生まれる」
「旗を掲げる者? 本物か偽りかなどどうでもよい。
人心さえ揺らせれば、それでいい」
その目には信仰も希望もなかった。
ただ利と支配を求める冷たい光だけが宿っていた。
⸻
不穏な兆し
ひとりが机の上に地図を広げ、町の周囲に印を記した。
「北の街道に兵を潜ませる。
南の倉庫には火薬を置け。
……町が裂ける時、我らがその隙を奪う」
松明の炎がぱちりと音を立てた。
その瞬間、倉庫に満ちた空気は、ただの陰謀ではなく現実の脅威に変わっていた。
⸻
結び
夜はまだ静かだった。
だが、その裏で町の裂け目はさらに深く掘り広げられようとしていた。
――影はすでに動き始めていた。