裂かれた広場
旅籠町の広場。
旗を掲げるべきか否かを巡り、声は次第に怒号へと変わっていた。
「旗を立てろ!」
「争いを呼ぶな!」
支持と反対の群衆は互いに距離を詰め、肩がぶつかり合う。
空気は荒れ狂う嵐の前触れのようにざわついていた。
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衝突寸前
若者のひとりが前へ出て拳を振り上げた。
「この町に未来を作るんだ!」
それに対し、老いた者が杖を突き出す。
「未来は血に染まってはならん!」
人々の間に緊張が走り、広場全体が裂けていく。
ほんの一言で、殴り合いに発展してもおかしくない。
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まかない部の動き
ソラが慌てて両手を広げ、声を張った。
「やめろ! 鍋の前で争うなんて……旗を守る意味を失うぞ!」
ミナも涙声で叫ぶ。
「せや! せめて一緒に飯くらいは食べよや! それもできんかったら、旗なんか立てても無駄や!」
ルナの言葉は冷静だった。
「決められないなら、決め急ぐ必要はない。
――選ばぬことも、選択のひとつよ」
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フードの人物
フードの人物は沈黙を守っていた。
だが、その沈黙が群衆を余計に不安にさせていた。
ただ一瞬、彼の瞳が少年に向けられた。
昨日、広場で「笑って食べたい」と叫んだあの子に。
その視線が火種を抑え込むように、広場を静めた。
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結び
衝突は寸前で留まった。
だが分裂の亀裂は、確かに町の心に刻まれてしまった。
――旗を巡る争いは、鍋の湯気では覆い隠せないほど深く広がり始めていた。