町の選択
旅籠町の広場。
フードを外した男の告白は、人々の胸に深く突き刺さっていた。
静けさの中から、やがて声が湧き上がり、広場は波立ち始めた。
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支持の声
「帰る場所を失った者が旗を掲げる……その気持ちは分かる!」
「俺たちも、旗があれば心を繋げられる!」
若者が熱に浮かされたように叫び、商人も手を挙げた。
「旗を掲げれば人が集まる! 町が豊かになるんだ!」
支持の声は熱を帯び、次々と広場に広がっていった。
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反対の声
一方で、老いた者たちは首を振り、母親たちは子を抱きしめて言った。
「旗が増えれば争いが生まれる……!」
「港の町もそうだったろう。火の手に巻き込まれるのはごめんだ!」
恐れと慎重さの声もまた強く、簡単にかき消されはしなかった。
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分裂する町
広場は熱と冷気に裂かれるように揺れていた。
支持の声が上がるたびに反対の声が返り、群衆は二つの波に割れていく。
「旗を立てろ!」
「旗はいらない!」
叫びが重なり、町全体が軋むような緊張に包まれた。
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まかない部の視点
ソラはその光景を見つめ、胸の奥が痛んだ。
「……希望と恐れが、同じ旗を巡ってぶつかってる」
ルナが小さく呟く。
「どちらの声も嘘じゃない。だからこそ――分かたれてしまうのね」
ミナは涙をこらえきれずに言った。
「こんなん……鍋で一緒に笑えたら、それでええのに……!」
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結び
広場に漂う湯気は、もはや温もりではなく、二つの陣営を隔てる靄のようだった。
町は一つの選択を迫られ、けれど答えはまだ出ていない。
――旗を掲げるか否か。
その決断が、旅籠町の未来を分けようとしていた。