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今日も魔王城は飯がうまい  作者: 昼の月
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明かされる素顔

旅籠町の広場。

 人々の視線が集まる中、フードの人物はゆっくりと布を外した。

 影に隠されていた顔が露わになった瞬間、群衆は息を呑んだ。



素顔


 現れたのは、まだ若い男の顔だった。

 だがその頬には深い傷跡が走り、片目は光を失っていた。

 ただの旅人に見えたその姿は、一瞬で戦の生き残りを思わせた。


 


 老人が呻くように呟いた。

「……あれは……北方の戦で焼けた紋章……」


 


 男の腕に刻まれていた古い焼印は、かつて滅びた辺境の国の証だった。



衝撃的な過去


 男は静かに言葉を紡いだ。


「俺は……故郷を失った。

 旗を掲げる王もなく、帰る村もなく、ただ炎に呑まれた……。

 俺に残ったのは、焼けただれたこの体と――空の鍋だけだった」


 


 人々はざわめき、目を見交わした。

 旗を求める声は、ここにも確かにあったのだ。



まかない部の動揺


 ソラは拳を握りしめた。

「……旗を掲げる理由が……帰る場所を失ったから……」


 


 ルナは低く呟く。

「本物か偽りか……それだけで切り捨てられるものじゃない」


 


 ミナの瞳には涙がにじんでいた。

「こんなん……誰が偽りって言い切れるんや……」



群衆の反応


 商人たちも口をつぐみ、若者たちは俯いた。

 母親たちは子を抱きしめ、老人は重く頷いた。


「……この町も、いずれ旗を必要とする日が来るのかもしれん」



結び


 男の声は冷徹ではなく、痛みを孕んでいた。

 それは人々に衝撃を与え、広場に静かな熱を走らせた。


 


 ――旗を掲げる者は、偽りではなく、喪失から生まれていた。


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