フードの人物の応答
旅籠町の広場に、子どもの声が残響のように広がっていた。
「笑って食べられるごはんがいい」――その言葉は、大人たちの迷いを一瞬だけ溶かしていた。
フードの人物は沈黙していた。
鍋から立ちのぼる湯気が、その影を淡く揺らしている。
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揺らぐ影
やがて人物は小さく息を吐いた。
それは、これまで見せなかった仕草だった。
「……子どもは、まっすぐだな」
その声は、これまでの確信に満ちた響きではなく、どこか遠い懐かしさを帯びていた。
群衆がざわめき、まかない部も思わず視線を交わした。
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人間味ある応答
フードの人物は鍋に杓文字を入れ、ゆっくりとかき混ぜながら続けた。
「旗が幾つあろうと……結局、人が求めるのは温かい飯か。
それを忘れていたのは、俺の方かもしれん」
フードの奥から覗いた横顔に、一瞬の哀しみが走った。
それは人を欺く策士の顔ではなく、迷いを抱える一人の旅人の顔だった。
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群衆の反応
「……あの人も、人間なんだな」
「旗を掲げる者は、心が鉄でできてると思ってたが……」
人々の囁きは、今度は恐れではなく同情や理解の色を帯び始めた。
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まかない部の胸中
ソラはその姿を見つめ、胸の奥が揺れた。
「……あの人も、“帰る場所”を探してるんだ」
ルナは静かに頷いた。
「旗は、弱さを隠すために掲げられることもある……」
ミナは小さく笑みを浮かべた。
「人間くさくてええやん。偽りかどうかは、まだ分からんけどな」
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結び
フードの人物は再びフードを深くかぶり、鍋を見下ろした。
だが、その沈黙は冷たさだけでなく、わずかな温もりを含んでいた。
――旗の影の奥に、確かに「人」が見え始めていた。