揺れる町の裁き
広場の中心。
まかない部とフードの人物を隔てて、町の人々が輪を作っていた。
鍋の湯気は淡く揺れ、風に溶けて消えていく。
「……どっちを信じればいいんだ……」
「旗は一つか、二つでもいいのか……」
人々の囁きは重なり合い、答えのないざわめきとなって広場を満たした。
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決められぬ群衆
老いた者は目を閉じて祈るばかり。
商人は利を計算しては、首を振って計算をやり直す。
若者は拳を握りしめながらも、一歩を踏み出せずにいる。
母親は子を抱きしめ、震える声で呟いた。
「……どちらの旗でもいい。ただ、争いだけは……」
その声に、多くの人々が頷き、また迷った。
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まかない部の視点
ソラは群衆を見回し、胸の奥が締めつけられるのを感じた。
「……誰も決められない。けど、それでも――旗を望んでる」
ルナが低く答える。
「決断を恐れるからこそ、漂うのよ。
本物も偽りも、いまの彼らには同じ炎に見えてる」
ミナは唇を噛んで呟いた。
「……せやけど、このままやと……町が溶けてなくなってまう」
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フードの人物
フードの人物は沈黙のまま鍋を見つめていた。
ただそこに在るだけで、人々は勝手に意味を見出し、勝手に揺れていく。
その様子を観察しているかのように、動じる気配はなかった。
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結び
広場を包むのは争いではなく、深い沈黙とざわめきの狭間だった。
誰も決められない。誰も進めない。
――漂う町そのものが、裁きの場となっていた。




