厨房、ついに反逆者を排出!? 正体は“味音痴な新人”
「……まずいわけじゃない。けど、よくわかんないんすよ、味って」
その新人兵は、配属初日にそう言い放った。
名前はネフ=カロス。
年齢は20歳そこそこ。
配属:魔王軍第七課(探索・支援班)
外見:目付きが鋭くてちょっと不機嫌そう
口数少なめ、戦闘技能は及第点。
だが──味覚が致命的にズレていた。
「これ、塩加減どう?」
「うーん……わかんないです。なんか、しょっぱい?」
「それ“塩だけ食った人”の感想!!!」
初期診断:味覚壊滅。
「うーん……たまにいるんだよね、“味が分からない”タイプ……」
と、ルナがため息交じりに言う。
「魔王様、矯正コース行きですか?」
「うん。“味覚再教育プログラム”だね。指導担当、ソラくんで」
「俺!?!?」
こうして俺は、
“味覚矯正係”に強制昇格させられた。
初日カリキュラム:
1.基本の五味(甘・塩・酸・苦・旨)講座
2.味の感じ方チェック(鼻つまみ+味見法)
3.食事記録を通した“食と記憶の連動”演習
「……地味にハードなんだけど……?」
「大丈夫。“味が分からない”っていう人の多くは、“味を意識して食べた経験がない”だけ」
「魔王様、それどこで学んだんですか?」
「昔、王都でそういう子たちの世話をしてたから」
ぽろっと出た一言。
俺とルナは、一瞬、顔を見合わせた。
「……王都?」
「うん。わたし、昔そこにいたの。料理人として──じゃなくて、使用人みたいな立場でね」
「へえ……」
それ以上、魔王様は語らなかった。
けれどその瞳には、“何かを見ていた人の色”が宿っていた。
ネフとの訓練は、思いのほかスムーズだった。
「……あれ? これ、甘い?」
「そう! ようやく“違い”に気づいたね!」
「なんか、舌の奥に残る感じが……あるっす」
数日後。
ネフは“カボチャのポタージュ”を飲んで、泣いた。
「……なんか……昔のこと、急に思い出して……
あっ、すみません、厨房で泣くとか意味わかんねぇ……」
「いいよ。ここ、意味わかんない奴ばっかだから」
「俺もそのうちのひとりか」
「うん、いらっしゃい。魔王城へ」




