平原にて広がる影
山を下りたまかない部は、広大な平原を歩いていた。
陽は高く、草原は風に揺れ、鳥の影が遠くをかすめていく。
港町の戦いや僧院での儀式が嘘のように、空は澄み渡っていた。
「……ここまで広いと、気持ちいいな」
ソラが肩の荷を下ろし、空を見上げて笑う。
「うん……山の霧より、ずっと軽い」
ルナも小さく微笑んだ。
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小さな違和感
だが、草原の中を進むうちに、ミナが足を止めた。
「なぁ、なんか……静かすぎひん?」
確かに、鳥の声も虫の音も少ない。
ただ風だけが草を揺らしていた。
ダグが剣に手をかけ、目を細める。
「……気のせいじゃねぇ。誰かが、ここを通った跡がある」
草の上には、押し倒された筋が道のように伸びていた。
それは人か獣か――判別できないほど大きく深い跡だった。
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迫る影
遠く、丘の向こうに黒い群れが揺れていた。
まだはっきりとは見えない。
だが確かに、こちらへ向かっている。
ミナがごくりと唾を飲む。
「……まさか、また旗を狙うもんらが……?」
ソラは杓文字を握り直し、風にたなびく草原を見据えた。
「まだ分からない。でも……準備はしておこう」
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結び
平原の風は相変わらず穏やかだった。
だがその奥に、確かに忍び寄る気配があった。
空の青さと地平の広がりの中で、じわりと広がる影――
それは、次なる波乱の予兆だった。




