山を下りる道、広がる空
僧院を後にしたまかない部の四人は、山道を静かに歩いていた。
朝霧がまだ残り、松の葉先から雫が落ちる音がかすかに響く。
儀式での鐘の余韻が、まだ耳の奥に残っているようだった。
ソラは杓文字を背に差し込み、深く息を吸った。
「……空気が澄んでるな」
ルナが頷き、微笑む。
「心も少し澄んだ気がするわ。
迷ってもいいって、あの導師に言われたから」
⸻
木漏れ日の中で
木々の間から差す光が道を照らす。
ミナが荷物を揺らしながら振り返る。
「なぁ、あの導師……めっちゃ厳しそうやったけど、最後は優しかったなぁ」
ダグが小さく笑った。
「優しさは、厳しさを越えた後にある。
だから、響いたんだろう」
四人の言葉は、山鳥の声と混ざり合って穏やかに広がった。
⸻
小さな寄り道
道端に咲いた花を、子どものようにミナが摘み取り、ソラに差し出した。
「これ、鍋に浮かべてもええんやない?」
「いや、食えるのかそれ」
ソラは苦笑し、ルナも吹き出した。
「……ま、綺麗だから飾るだけにしましょう」
道は厳かさから解放され、少しずつ柔らかな日常を取り戻していった。
⸻
広がる空
山を下りきった先に、広大な平原と青空が広がっていた。
港町の海とは違う、果てしなく澄んだ空だった。
ソラは足を止め、空を見上げた。
「……まだ旗の争いは続くんだろうな。
でも今は、この空の下で鍋を煮れることが嬉しい」
仲間たちも同じ空を仰ぎ、静かに頷いた。
⸻
結び
儀式を越え、心に残ったのは不安ではなく、温かな確信だった。
旗は炎のように揺らぎ、広がる。
けれど――その灯を守り続ける限り、人は帰る場所を失わない。
山を下りる道は緩やかで、彼らの心もまた緩やかだった。




