表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
今日も魔王城は飯がうまい  作者: 昼の月
81/273

心を映す鍋

僧院の中央堂。

 鐘の音が響き続け、巡礼者の祈りが低く重なる。

 香の煙と鍋の湯気が絡み合い、堂内は現実と夢の境界のように揺らめいていた。


 


 ソラが杓文字を握り、鍋をかき混ぜる。

 その動きに合わせるように、ルナが刻んだ野菜を静かに落とし、

 ミナが火を整え、ダグが器を並べる。


 


 ――四人の息がひとつに重なった。



幻想の兆し


 やがて、鍋の表面に奇妙な光が走った。

 ただの湯気ではない。

 揺れる湯面に、まるで影絵のように姿が浮かび上がる。


 


 ミナが思わず声を漏らした。

「……これ、なんや……?」


 


 湯面には、人々の笑顔、涙、そして港で共に守った仲間たちの姿が映っていた。

 それは、彼らがこれまで守ろうとした“旗の記憶”だった。



心の揺らぎ


 しかし次の瞬間、光景は揺らぎ、別の影が現れる。

 旗を奪おうと迫る傭兵。

 密談を交わす黒い外套の者たち。

 そして――分かたれた人々の影。


 


 ソラは額に汗をにじませ、杓文字を強く握った。

「……これが、俺たちの心の迷い……」


 


 ルナも唇を噛む。

「偽りを否定しきれない弱さ……それも映ってるのね」



導師の言葉


 導師の声が堂内に響いた。


「鍋は心を映す。

 真も偽も、救いも欲も――すべてはひとつの炎に混ざり合う。

 その中でなお、汝らは旗を掲げられるか」


 


 祈りの声が高まり、湯気がさらに濃く立ち上る。



結び


 鍋の中には再び光が満ち、人々の笑顔が広がった。

 迷いと共に、それでも「帰る場所を守りたい」という願いが浮かび上がっていた。


 


 ソラは震える声で呟く。

「……俺たちは……まだ旗を掲げられる」


 


 幻想は湯気とともに消え、堂内に静けさが戻った。

 だが巡礼者たちの瞳には、確かに光が宿っていた。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ