導師の試み
僧院の中央堂。
高くそびえる柱には経文が刻まれ、壁には古びた旗が掛けられていた。
香の煙が立ちこめ、巡礼者たちの祈りの声が低く響いている。
その壇上に、導師がゆるやかに歩み出た。
白衣の裾が床をすり、鐘の音がひとつ鳴る。
空気が張り詰め、誰もが息を呑んだ。
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提案
導師はまかない部を見つめ、静かに告げた。
「……汝らが旗を知る者ならば、我らと共にひとつ鍋を煮よ。
炎の前に座し、神に誓う心をもって味を調えよ。
その鍋が真であれば、旗は一つに収まろう」
その声音は柔らかいが、重みは剣より鋭かった。
ソラが息を呑む。
「……鍋で、試されるのか」
ルナは表情を引き締める。
「ただ煮るんじゃない。これは儀式……。
心の揺らぎが、すべて味に現れる」
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厳かな支度
壇上に大鍋が据えられ、巡礼者たちが円を描いて座した。
導師の合図で、鐘が再び鳴る。
その音に合わせて、香の煙がゆるやかに天へ昇る。
ミナがごくりと唾を飲む。
「……緊張で手ぇ震えるわ……」
ダグは短剣を帯に戻し、真剣に鍋の前へ進み出る。
「戦いじゃねぇけど……これも戦だ」
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試みの始まり
ソラは杓文字を手に取り、炎の前に立った。
導師が厳かに告げる。
「心を込めよ。
旗を掲げる者の心が、すべて味に映るのだから」
巡礼者たちの祈りが高まり、鐘が鳴り続ける。
香の煙と湯気が混ざり合い、堂内は異様な緊張に包まれていった。
――鍋を煮るという行為が、ただの料理ではなく、信仰と真実を測る秤に変わっていた。
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結び
杓文字を握るソラの手に汗が滲む。
隣ではルナが材料を刻み、ミナが火加減を見守り、ダグが器を整える。
四人の呼吸が揃った瞬間、堂内はさらに静まり返った。
――導師の試みが、いま始まった。




