表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
今日も魔王城は飯がうまい  作者: 昼の月
80/277

導師の試み

僧院の中央堂。

 高くそびえる柱には経文が刻まれ、壁には古びた旗が掛けられていた。

 香の煙が立ちこめ、巡礼者たちの祈りの声が低く響いている。


 


 その壇上に、導師がゆるやかに歩み出た。

 白衣の裾が床をすり、鐘の音がひとつ鳴る。

 空気が張り詰め、誰もが息を呑んだ。



提案


 導師はまかない部を見つめ、静かに告げた。


「……汝らが旗を知る者ならば、我らと共にひとつ鍋を煮よ。

 炎の前に座し、神に誓う心をもって味を調えよ。

 その鍋が真であれば、旗は一つに収まろう」


 


 その声音は柔らかいが、重みは剣より鋭かった。


 


 ソラが息を呑む。

「……鍋で、試されるのか」


 


 ルナは表情を引き締める。

「ただ煮るんじゃない。これは儀式……。

 心の揺らぎが、すべて味に現れる」



厳かな支度


 壇上に大鍋が据えられ、巡礼者たちが円を描いて座した。

 導師の合図で、鐘が再び鳴る。

 その音に合わせて、香の煙がゆるやかに天へ昇る。


 


 ミナがごくりと唾を飲む。

「……緊張で手ぇ震えるわ……」


 


 ダグは短剣を帯に戻し、真剣に鍋の前へ進み出る。

「戦いじゃねぇけど……これも戦だ」



試みの始まり


 ソラは杓文字を手に取り、炎の前に立った。

 導師が厳かに告げる。


「心を込めよ。

 旗を掲げる者の心が、すべて味に映るのだから」


 


 巡礼者たちの祈りが高まり、鐘が鳴り続ける。

 香の煙と湯気が混ざり合い、堂内は異様な緊張に包まれていった。


 


 ――鍋を煮るという行為が、ただの料理ではなく、信仰と真実を測る秤に変わっていた。



結び


 杓文字を握るソラの手に汗が滲む。

 隣ではルナが材料を刻み、ミナが火加減を見守り、ダグが器を整える。


 四人の呼吸が揃った瞬間、堂内はさらに静まり返った。


 ――導師の試みが、いま始まった。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ