忍び寄る外部の影
夜。
港町の沖合に、不気味な灯がちらちらと揺れていた。
それは漁火ではない。
船影――数隻の武装した船が、静かに港を囲もうとしていた。
「……来たな」
倉庫の屋上で見張りをしていたグレイルが低く呟いた。
隣に立つソラも緊張に息を呑む。
船に掲げられていたのは、見知らぬ紋章の旗。
この町のものでも、魔王城のものでもない。
――密談を交わしていた外部の勢力、その本体だった。
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町のざわめき
港の広場では、すでに噂が走っていた。
「武装船が沖にいるらしい!」
「交易じゃない、襲撃だ!」
「旗を……旗を狙っているんだ!」
人々の顔は恐怖に青ざめる。
二つの旗を巡って分かれかけていた心が、今度は一斉に揺さぶられた。
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まかない部とグレイル
広場の中央、大鍋の前。
まかない部とグレイルが並び立つ。
「外の連中は、旗を利用するつもりだ」
ソラが声を張る。
「城の旗も港の旗も関係ねぇ!」
グレイルが続ける。
「この町を食い物にさせてたまるか!」
対立していた二人の声が重なり、群衆の視線が一点に集まった。
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脅威の正体
そのとき、港に巨大な音が響いた。
外の船から投げ込まれた火矢が、波止場の倉庫を燃やし始めたのだ。
炎が夜を赤く照らし、悲鳴が上がる。
「……示威か」
ルナが冷たい声で呟く。
「本気でこの町を飲み込むつもりね」
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決意
混乱の中、ソラは杓文字を握りしめた。
鍋を守るため、町を守るため――。
「グレイル。旗が二つでも、今は一緒に戦おう」
グレイルは一瞬黙り込み、やがて頷いた。
「……旗を守るのは、俺の役目だ。
けど今夜は――お前らと同じ旗を掲げる」
炎の光に照らされ、二人の影が並んで立った。
港町を飲み込もうとする外部の脅威に、共に立ち向かう覚悟がそこにあった。




