走る少年、告げられる陰謀
夜の港町。
人気のない通りを、ひとりの小さな影が走っていた。
息は荒く、胸は痛み、涙で視界が滲んでいる。
――聞いてしまった。
町を裂く、あの恐ろしい密談を。
「……伝えなきゃ……! あの人たちに……!」
ただの子どもにすぎない。
でも、鍋を食べて笑えたあの温かさを、壊されたくなかった。
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不安と決意
足元の石につまずき、膝を擦りむく。
痛みで涙があふれる。
けれど少年は唇を噛み、立ち上がった。
心臓が苦しいほどに早鐘を打っても、足を止めるわけにはいかなかった。
「みんな……笑ってたのに……。
もう泣かせたくない……!」
震える声を夜風がさらっていく。
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まかない部の元へ
広場の片隅、鍋を見守っていたソラたちの前に、少年が飛び込んできた。
膝は血に染まり、肩で息をしている。
「……き……聞いたんだ……!
町を裂こうとしてる人たちが……!
港を壊そうとしてるんだ!」
その必死な訴えに、ミナは思わず駆け寄り、少年を抱きしめた。
「落ち着き! もう大丈夫や、ここに来たんやから!」
少年は必死に首を振る。
「だめだよ……すぐに……!
グレイルさんを……利用するって……!」
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受け止める者たち
ルナは少年の震える手を包み、真剣に見つめた。
「……信じるわ。あなたの言葉を」
ソラも頷く。
「俺たちは鍋を守る。だから、君が見たことは無駄にならない」
少年は堪えていた涙を堰を切ったようにこぼした。
「……よかった……。僕、ちゃんと伝えられた……」
その小さな声に、まかない部の胸は熱く締め付けられた。
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結び
夜の鍋の湯気が、少年の震えた体を包み込むように広がっていく。
その匂いは、確かに「帰る場所」の温もりだった。
ソラたちは決意を固める。
――この旗を、子どもの勇気ごと守らなければならない。




