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今日も魔王城は飯がうまい  作者: 昼の月
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分かたれる広場

鍋比べの翌朝。

 港町の広場は、普段と変わらぬ市場のざわめきに包まれていた。

 だが、その空気の底には昨日までなかった重さが潜んでいた。


 


 魚を並べる漁師たち。

 片方は「城の鍋がやはり本物だ」と囁き、

 もう片方は「港の旗を守るべきだ」と口をつぐんだ。


 声を荒らす者はいない。

 けれど、互いに視線を合わせようとせず、わずかな距離が広がっていく。



町の人々の間で


 酒場の女主人は、昼の客にそっと問いかけられた。


「どっちを信じる?」


 女主人は答えず、ただ苦笑して酒を注いだ。

 だがその背中は、どちらを選んでも店を割ることになると知って震えていた。


 


 船大工の老人は浜辺に座り込み、煙草をふかしていた。

「……二つの旗を見上げるほど、人は強くねぇ。

 そのうち、この町は沈むぞ」


 


 そのつぶやきは波にさらわれ、誰の耳にも届かない。



まかない部の視点


 ソラたちは広場の隅で人々を見守っていた。

 喧嘩も騒動も起きてはいない。

 だが、笑い声が少なくなり、沈黙が増えていた。


 


 ルナが低く呟く。

「……静かだけど、確実に割れてるわね」


 


 ミナが胸を抱え、苦しげに息を吐いた。

「うちらが鍋持ってきたせいで、こんなんなったんやろか……」


 


 ダグは首を振る。

「いや、誰かが旗を掲げた時点で、こうなる運命だった。

 俺たちはただ、それを見届けに来たんだ」


 


 ソラは沈黙し、広場に立つ二つの鍋を見つめた。

 旗が二つ並ぶというだけで、人の心はこんなにも揺らぐのか。



不安の残滓


 その夜、港町の灯りは早く消えた。

 人々は互いに戸を閉ざし、静けさだけが町を包む。


 風に混じって、二つの鍋の残り香が漂っていた。

 だがそれは、温かさよりも、不安を煽る匂いのように感じられた。


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