ミナ、厨房でガチで暴れる。武器は泡立て器
「待って待って待って! ミナさん、その泡立て器で何しようとしてるの!?」
「叩く」
「叩くの!? なにを!?」
「卵黄とバターを全力で」
「目的正しかった!! でもやり方怖すぎる!!」
──これは今朝の厨房での光景である。
今日の朝食は“焦がしバターの黄金ソースをかけたパン粥”。
厨房内では、ミナ=ヴォルカさんが初めてホット調理ゾーンに入る日だった。
「この混ぜる作業……力仕事だと聞いた」
「うん、確かにそうだけど……あの、筋肉いらないの。繊細さの方が大事なの」
「では力を繊細に叩く」
「名言みたいに言うな!!」
結論から言うと──めちゃくちゃ上手かった。
あまりに豪快すぎてバターが吹き飛びそうになったが、
混ざり切ったあとのテクスチャが絶妙すぎて、厨房長が黙って親指を立てていた。
「……あれ、意外と才能あるのでは?」
「うん。本人は“魔剣使い”って言ってたけど、“泡立て器の勇者”の方が向いてるかも」
「なんか褒めてるのかバカにしてるのか分からん!」
その日の午後。
俺は魔王様から、突然呼び出された。
「今日、メニュー開発会議があるの。ソラも出席して」
「……えっ、俺、味見係ですよ?」
「そう。だからこそ、“胃袋目線”の意見がほしいの」
「胃袋目線……」
開発会議の出席者は以下のとおり:
•魔王様(総責任者)
•ルナ(厨房魔導管理)
•グルノワ(特別食材顧問)
•ミナ(力仕事担当)
•リド(技術調整)
•俺(胃袋代表)
「次期メニュー候補はこちら」
ルナが紙束を配る。
•熔岩魚の蒸し焼き・辛味草ソース
•蟻蜂の子と米風樹のタルト
•魔光ハーブの炙りサラダ
•“空飛ぶ野菜”のグリル串
•炒め海草と酢根菜のミルフィーユ
「……なんか、名前だけで胃が試されてる気がする」
「気のせいよ。素材は全部うまいから」
ここから、魔王城“開発班”の狂気と胃袋の戦いが始まるのだった。




