迫る傭兵たち
夜の村外れ。
月明かりを背に、三人の傭兵がじりじりと歩み寄ってくる。
手には短剣や棍棒。
だがその目は金よりも――「鍋」を見据えていた。
「村人が旗を守るだと? 笑わせるな。
素人どもに、俺たちが負けるはずがねぇ」
その言葉を、広場に集まった村人たちは震えながら聞いていた。
だが、鍋の前に立つミナが声を張り上げる。
「怖いんは分かる! せやけど逃げたら、また奪われるだけや!
鍋は――うちらの旗やろ!」
その一声に、村人たちの目に光が宿る。
農具や松明を握りしめ、円を描くように鍋を囲んだ。
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まかない部の布陣
ソラはまな板用の木刀を握り、前に出る。
ルナは小さな光の魔法を指先に宿し、周囲を照らす。
ダグは腰に差した短剣を構え、震える膝を押さえつけるように立っていた。
「……ここは厨房じゃないけど、やるしかないな」
ソラが深呼吸する。
「料理も守りも、手は抜けないってことね」
ルナが応じた。
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初めての衝突
傭兵たちが一斉に踏み込んでくる。
棍棒が振り下ろされ、木刀とぶつかり合った。
「っ……重い!」
ソラの腕に衝撃が走る。
ミナは鍋蓋を盾のように構え、棍棒を受け止めた。
火花が散り、金属音が広場に響く。
「どりゃああ! 鍋の蓋なめんなや!」
村人たちも必死だった。
農具で突き出したり、松明を振り回したり。
動きは拙いが、守りたい一心が彼らを支えていた。
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子どもの叫び
その混乱の中、昨日鍋を食べたあの孫が、広場の端から叫んだ。
「がんばれー! 鍋を守ってー!」
小さな声だが、広場全体に響き渡る。
その声に背を押されるように、村人たちの動きが力強くなった。
「おらあっ!」「負けるか!」
鍋を囲む輪は崩れず、むしろ強く締まっていく。
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不穏な終わり
やがて、数で押され始めた傭兵たちは後退した。
だが撤退の直前、ひとりが低く吐き捨てる。
「……旗は必ず狙われる。
次はもっと大きな波が来るぞ」
そう残して闇に消えていった。
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村の静けさ
戦いの後、村人たちは鍋を囲み、肩で息をしながらも笑い合った。
ソラは木刀を下ろし、ほっと息を吐く。
「……みんな、本当に守ったんだな」
ミナがにやりと笑う。
「そらそうよ。旗は一度掲げたら、降ろせへんのや」
少年が鍋の前に駆け寄り、声を上げた。
「やった! 僕たち、鍋を守ったんだ!」
その声に、誰もが涙混じりの笑みを浮かべた。
広場の鍋は今夜も温かく湯気を立て続けていた。




