村からの頼みごと
魔王城の門を下りた先の村では、朝から市場がにぎわっていた。
まかない部が食材の買い付けに訪れると、村人たちは次々に声をかけてくる。
「おお、噂の城の料理人さんたち!」
「なぁなぁ、一つ相談してもいいかい?」
ソラは少し戸惑いながらも笑顔を返した。
「ええ、もちろん。どうしたんですか?」
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村人の頼みごと
最初に声をかけてきたのは、畑を営む老夫婦だった。
「孫がね、体を悪くして食が細いんだよ。
何か、あの鍋みたいに温かく食べられるもんは作れないかねぇ」
続いて、羊飼いの若者が加わる。
「俺の羊がな、ここのとこ落ち着かなくて。
不思議と鍋の匂いを嗅ぐと静まるんだ。余り物でも分けてもらえないか?」
さらに、行商人の娘まで。
「わたし……旅の途中でよく怖い夢を見ちゃうんです。
あの鍋を食べた夜だけはぐっすり眠れたから……」
次々と寄せられる頼みごとに、まかない部は目を丸くする。
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まかない部の反応
「……どうする? これ、ぜんぶ引き受けたら大仕事だよ」
ソラが小声でつぶやく。
ルナは腕を組んでため息をついた。
「でも、放っておける話じゃないわね」
「せやせや! 困っとる人に鍋を分けるんが、うちらの役目やろ!」
ミナはやる気まんまんで、すでに袖をまくり上げている。
ダグも笑いながら肩をすくめた。
「ったく、結局こうなるのか。よし、俺も手伝うぞ」
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村での小さな鍋
その日の夕暮れ、村の広場に大きな鍋が据えられた。
野菜や豆を煮込み、香草で香りを整えた素朴なスープ。
まかない部が工夫して仕上げた“村鍋”が完成した。
器を手にした老夫婦の孫が、そっと一口。
すると瞳がぱっと明るくなり、小さな声で「おいしい」と呟いた。
羊飼いの若者は、器を羊に近づけて鼻先をくんくんさせる。
羊はしばらくして落ち着いたように首を下げ、草を食べ始めた。
行商人の娘は、湯気を浴びながら涙をにじませる。
「……これで、また旅に出られます」
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温かい締め
火が落ち、鍋が空になるころ。
村人たちは口々に「ありがとう」と頭を下げた。
ソラは皆の笑顔を見て、胸の奥がじんわりと温かくなる。
「……結局、鍋って旗でも鎖でもなく、ただ“支え”なんだな」
ルナが小さく笑う。
「旗も鎖も支えも……結局は人が決めること。
けど、いまはただ“おかわり”のほうが先かもね」
ミナとダグが同時に吹き出した。




