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今日も魔王城は飯がうまい  作者: 昼の月
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鍋の試食会

大広間に長い卓が並べられ、香り立つ湯気が漂っていた。

 魔王様の命により、異国の使者セリュナをもてなす試食会が開かれることになったのだ。


 


「よっしゃ、今日は気合入れて煮込むで!」

 ミナが鍋をかき混ぜながら声を張り上げる。


「気合い入れすぎて焦がさないでね」

 ルナが冷ややかに釘をさす。


 


 ソラとダグも手を動かし、香草や野菜を刻んで加えていく。

 異国の口に合うように、香辛料は控えめに、だが旨味は深く――。



食卓にて


 やがて鍋が卓上に並べられ、セリュナの前に器が置かれる。

 使者は真剣な眼差しで一口すくい、静かに口へ運んだ。


 


「……」


 


 一瞬、表情は動かない。

 皆が固唾をのんで見守る。


 


 そして――。


「……温かい」


 ぽつりと漏れた言葉に、場の空気がふっと和らいだ。


 


「海の民は、塩辛さと冷えた保存食ばかり。

 こうして身体の芯に届く味は……久しく忘れていた」


 


 セリュナの声は、どこか懐かしさを含んでいた。



村人のような笑顔


 ミナがにやりと笑い、ソラも胸をなでおろす。


「そら良かった。温かい飯は、誰が食っても幸せやろ」


「……まさか魔王城で、村の食卓に似た言葉を聞くとはな」

 セリュナが笑みを浮かべる。


 


 その笑顔は、海を渡ってきた使者という威厳よりも、

 遠い故郷を思い出した村人のように見えた。



魔王様の一言


 魔王様が杯を掲げ、低く告げる。


「鍋は旗である。

 だが同時に、囲む者たちを繋ぐ鎖でもある。

 国を越え、海を越えても……共に座れば、同じ温かさを分け合えるのだ」


 


 その言葉に、場は静かに頷きの波を広げた。

 兵士も、使者も、まかない部も――一つの鍋を囲んで。



ちょっとした騒動


 だがそこに、ダグが焦った顔で声をあげる。


「お、おい! 肉が足りねぇ!」


「ええ!? 誰や先に大盛りよそったん!」

 ミナが慌てて鍋を覗き込む。


 


 犯人は子ども兵士の一人で、頬をふくらませながらもぐもぐ食べていた。

 皆が思わず吹き出し、場は笑いに包まれる。


 


 セリュナも肩を揺らし、声を上げて笑った。

「……旗も鎖もいいが、まずは腹いっぱいが一番だな」


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