厨房防衛戦! 来客は“味にうるさい王族”
「ソラ。これ、盛り付けて」
「えっ!? 俺、今まで味見担当でしたけど!?」
「うん。でも今日の客、盛り付けの美的感覚も点数に入れるんだって」
「その情報早く言ってよ!!」
午前十時。魔王城厨房・第一調理室。
今そこには緊張感という名のバターの香りが漂っていた。
「来るのは、“王国の第四王子”だそうです」
ルナが資料を読み上げる。
「和平の使者という建前だけど、実際は“魔王城の食水準チェック”が目的らしい」
「なんだその本末転倒外交!?」
「でも魔王様が“料理で黙らせるから任せて”って言ってたよ」
「最前線すぎる魔王様……」
今回のランチは、以下の構成:
•前菜:香草バターで和えた焙煎ナッツと熟成チーズのパレット
•メイン:火竜の赤身肉を低温で煮込んだロースト・ヴェリス風
•付け合わせ:パプリカピューレの彩り野菜
•スープ:根菜の焦がし香スープ、白煙仕立て
•デザート:フルーツの花蜜漬けと柑橘氷の盛り合わせ
──俺が担当するのは、デザートの盛り付け。
「ソラ、味はもう完成してる。見た目で感動させるのが、今回の勝敗を握るわ」
「まじか……責任重ッ!!」
「皿の温度管理、香りの逃げない配置、あと全体の“ストーリー”ね」
「ストーリー!?」
厨房が静かになった。
空気を裂いて入ってきたのは、青いマントに銀髪の青年。
王子だ。
しかも、顔がめちゃくちゃ不満そう。
「ふむ。ここが魔王の厨房か……雑多だな」
開口一番それ。
が、魔王様は笑った。
「お口に合わなければ、帰っていただいても結構ですよ?」
「……ふん、強気だな。では、いただこう」
一品、二品。
王子の表情が、微妙に変わっていく。
そして俺が出したデザート。
温冷差をつけた果実の蜜漬けを、氷の皿に広げ、
中心に柑橘氷を薄く削った小山を置いた。
そのてっぺんには、魔力で“わずかに揺れる花弁”をあしらった。
王子の箸が止まる。
口に含み――
「……なるほど。これは……」
魔王様が小さく笑った。
「どうぞ。魔王城の“味と演出”の、底力です」
結果:王子、完食。無言で去っていった。
なお、後日彼は魔王城に“食通として”再来訪する。




