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今日も魔王城は飯がうまい  作者: 昼の月
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鍋は誰のものか? 城内会議とまかない部の決意

翌日、魔王城の大広間には重々しい空気が漂っていた。

 魔王様が玉座に座り、その左右には参謀たち、

 そして捕らえられた南方の刺客が鎖に繋がれたまま床に座らされていた。


 


「……では改めて聞くわ。あなたの目的は?」

 魔王様の声は静かだが、威圧が込められている。


 


 影の男は顔を上げ、かすれ声で答える。


「……我らが民は、砂漠に水と食を失った。

 百年前まで受け継がれていた“呼び戻す鍋”――それがあれば、民は再び……」


 


 そこまで言うと、兵士に口を押さえられた。

 参謀が前に出て進言する。


「魔王様。この鍋、東も南も求めているのは明白。

 城で守り抜けば、争いを招きます」


 


 別の参謀は首を振る。


「いや、逆に鍋を共有し、交易の道具とすれば各国を縛れる。

 我らが優位に立つ好機です」


 


 意見は割れ、場の空気は次第に熱を帯びていった。

 そんな中、ソラたちまかない部は壁際に控えていた。

 だがついに、ミナが我慢できず口を開く。


 


「なあ、鍋鍋言うてるけど、うちらにとったらただの“ご飯”やで!

 みんなで帰ってくるための……旗みたいなもんや!」


 


 会議の空気が一瞬止まる。

 ルナも続いた。


「そう。私たちは守りたい。

 でも、それは権力のためじゃない。

 帰ってくる場所を失わないために、守りたいの」


 


 ダグは俯きながらも、小さく絞り出した。


「……兄貴も言ってた。“鍋は仲間の旗や”って。

 奪い合うもんじゃない……」


 


 魔王様はしばし沈黙した。

 やがて、玉座から立ち上がり、静かに言う。


 


「……いいわ。

 まかない部の答えを、城の答えとする。

 この鍋は、誰かの道具にも、取引の札にもならない。

 ――ここに帰る者たちのためだけに、煮続ける」


 


 参謀たちはざわめき、しかし逆らえず頭を下げた。

 その場で唯一、目を伏せずにいたのは東の来訪者だった。


 炎のように光る瞳で鍋を見つめ、心の中で呟く。


 


「……その決断、国を巻き込む嵐になるぞ。

 それでも――守るというのか」


 


 まかない部の心は揺れていたが、

 それでも「自分たちの鍋を守る」という決意が形を成し始めていた。


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