鍋を嗅ぎつけた謎の来訪者
帰還の宴が続く大広間。
討伐隊は鍋を囲み、笑い声と湯気が入り混じっていた。
その片隅で――ひとり、輪の中に加わらない人物がいた。
深く外套のフードを被り、
雪を払わずそのまま椅子に腰掛けている。
視線は鍋に注がれたまま、周囲の喧騒にはまるで興味がないようだった。
ダグがそっと近づき、声をかける。
「……さっきも言ってましたよね。匂いを辿って来たって。
あんた、討伐隊の仲間じゃないですよね?」
フードの奥から、小さく笑う声がした。
「仲間ではない。
だが――この香りは、私が探していたものだ」
言葉は短く、それ以上は語らない。
だが、その言い方には妙な確信があった。
ソラが鍋を持って近づく。
「冷え切ってるな。まずは食えよ。話はそれからだ」
フードの人物はしばらく鍋を見つめ、
やがてゆっくりスプーンを取った。
一口、スープを口に含むと――
……ピタリ、と動きが止まった。
「……やはり、この味……間違いない」
その低い声に、ソラもルナも思わず顔を見合わせる。
ただの感想とは違う。
何かを確認した者の声音だった。
ミナが肘でソラをつつく。
「なあ、あの反応……鍋食っただけで“探し物見つけた”みたいな顔してへんか?」
「……ああ。あれは、ただの通りすがりじゃない」
ルナが一歩踏み込み、問いかける。
「――あなた、どこから来たの?」
しばし沈黙。
やがて、フードの影からわずかに見えた口元が、静かに答える。
「……遠く、東の王国から。
だが、その名を今は明かせぬ」
それ以上の質問には答えず、
ただ再び鍋に視線を落とすその姿は、
逆に多くの疑問を生んでいく。
ソラは鍋をかき混ぜながら、心の中で呟いた。
――この人間、何を知っている?
宴は続くが、
まかない部の心には、静かなざわめきが残っていた。




