留守番の厨房に新たな客!? “料理修行希望”がやってきた
討伐隊を送り出して三日目。
魔王城の厨房は、普段より静かだった。
「……なんか、物足りないな」
「人が減ると、まかない作る量も減るからね」
「でも静かだから、掃除ははかどるわよ」
そんな空気を破ったのは、
門番から届けられた一通の伝言だった。
「弟子入り希望の若者が来ている」
やってきたのは、
栗色の髪を短く刈り込んだ、快活そうな青年。
背には短剣、腰には調味料袋。
「俺、ダグ=シェルン!
冒険者なんですけど、ここで料理修行させてもらえませんか!」
ソラは眉をひそめる。
「……なんでまた、魔王城で?」
「噂です! ここの料理は戦力になるって!
俺も“戦える料理人”になりたいんです!」
言うことは真っ直ぐだが、
ルナは青年の目の動きを見逃さなかった。
――鍋や包丁より、厨房の間取りや食材庫をちらちら見ている。
ルナがソラに小声で囁く。
「……あれ、本当に料理目当てじゃないわね」
「じゃあ、何だ?」
魔王様は面白そうに笑う。
「ふふ、いいじゃない。何を探しているのか、遊ばせてあげましょう」
修行初日。
ダグは手際こそ悪いが、覚えは早い。
だが――
•倉庫整理を頼めば、棚の奥をじっと調べる
•野菜の皮むき中も、外の廊下を確認する
•廃棄予定の木箱をひっくり返して中を覗く
そして二日目の夜。
食器棚の裏で、古びた封筒を見つけた瞬間――
「……やっぱり、ここにあったのか」
その独り言を、ソラは聞き逃さなかった。
「ダグ、お前……何を探してた?」
青年は観念したように、短剣を外して答えた。
「……俺は、料理のためじゃなく、亡き兄の遺書を探しに来たんです。
兄は昔、この城の警備兵をしていて……」
魔王様は腕を組み、目を細める。
「面白いわね。じゃあ、この厨房が手伝ってあげましょうか。
報酬は――もちろん、料理の手伝いよ」
こうして、**“遺書探し兼料理修行”**という奇妙な日々が始まった。




