出発の朝! まかない部、見送りの誓い
夜明け前の魔王城。
まだ空は薄暗く、城下町も寝静まっている。
しかし、城門前には討伐隊の列が整っていた。
まかない部は早朝から厨房に立ち、最後の見送り料理を準備していた。
「よし、これで全員分――持たせるぞ!」
作ったのは、
“帰り道のお守りパン”。
•熱石で焼き上げた、冷めても柔らかい発酵パン
•中には昨夜の【帰還の鍋】を煮詰めた具を包み込む
•香草を混ぜて、遠くからでも匂いで帰路を思い出せるように
ソラがひとつずつ紙に包み、手渡していく。
「これは帰ってくるまで食うな。
……どうしても心が折れそうな時だけ開けろ」
ミナが両手を腰に当てて叫ぶ。
「全員揃って、笑って帰ってこいよ!!
鍋の続きをやるんだからな!!」
ルナも笑顔で、けれど真剣に付け加える。
「道に迷ったら、この匂いを頼りに帰ってきて。
パンは一人で食べるものじゃないわ」
魔王様は、最後尾のギルドマスターに歩み寄り、
低い声で言った。
「……この城門は、必ず全員でくぐって帰ってきなさい。
約束できないなら、今すぐ出発をやめなさい」
ギルドマスターは一瞬だけ目を細め、
そして力強く頷いた。
「約束する。必ず全員で戻る」
やがて、号令が響き渡り、
討伐隊は雪を踏みしめながら城を後にした。
その背中が見えなくなるまで、
まかない部は門前に立ち、
パンの香りとともに見送り続けた。




