ギルド合同まかない作戦、始動!
翌朝、魔王城厨房は冒険者たちでごった返していた。
長剣を腰にぶら下げたまま包丁を握る者、
鎧姿で鍋をかき混ぜる者、
果ては弓矢を背負ったまま魚をさばこうとする者まで。
「おいおい……それ、魚じゃなくて自分の指切るぞ!」
「皮を剥ぐのは得意なんだが……これは獲物じゃないのか?」
「料理用語の“皮を剥ぐ”を狩猟感覚でやらないで!」
ソラは深呼吸し、作戦会議モードに入った。
「よし、今回のメニューは【士気爆上げシチュー】だ」
•ベース:ギルド持ち込みの獣骨と野菜で出汁を取る
•具材:保存性と腹持ち重視(根菜・干し肉・豆類)
•味付け:香辛料で体を温め、士気を刺激
•提供法:全員一斉ではなく、鍋を囲んで班ごとに食べる形式
ルナが補足する。
「士気を上げるには“自分たちでよそい合う”のが効果的。
大鍋を班ごとに配置して、交流の場にするわ」
「なるほど……討伐前に胃袋だけじゃなく、仲間意識も温めるわけか」
だが、冒険者たちの調理スキルは――壊滅的だった。
「バスー! 火力調整! 鍋底焦げてる!」
「いや、あの双剣の兄ちゃんが火魔法ぶち込んだんや!」
「こっちはこっちで塩が……え、これ砂じゃない!?」
「そっちは砂漠ギルド組や! 持ち込み食材間違えとる!」
魔王様は笑いながら指示を飛ばす。
「いいじゃない。混乱もまた、厨房の味よ。
――でも、焦げ臭いのは消しなさい」
午後になる頃には、冒険者たちの顔つきも変わっていた。
剣も鎧も置き、ただの“料理人見習い”として鍋を囲む。
やがて、士気爆上げシチューが完成。
濃厚な出汁と香辛料の香りが立ち上り、
吹きこぼれる笑い声と共に、鍋は空になっていく。
「……旨いな! 明日も戦えそうだ!」
「いや、これで今日も戦える!」
ギルドマスターがソラの肩を叩いた。
「お前たちの料理は腹だけじゃなく、
“戦う理由”まで温めてくれるな」
その夜、厨房に残った鍋の底には、
香辛料と笑顔の香りがまだ残っていた。




