表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
今日も魔王城は飯がうまい  作者: 昼の月
315/379

波紋の届き方

翌朝、

集落は少しだけ静かだった。


止まってはいない。

動いてもいる。


ただ、

押し合っていない。


アリアは

水路のそばで立ち止まり、

流れを眺めた。


昨日より、

水音が低い。


ルナが

そっと言う。


「……急いでない……」



◆最初の声


昼前、

隣村からの使いが

一人、訪れた。


険しい顔ではない。

だが、

戸惑っている。


「……量、

 少なかった」


責める声ではない。


確認の声だ。


集落をまとめる女が

すぐ応じた。


「今日は、

 整えてるの」


使いは

首をかしげる。


「……整える?」


その言葉は、

まだ届いていなかった。



◆説明ではなく共有


アリアは

口を挟まない。


代わりに、

女が続けた。


「止めたんじゃないわ。

 無理のない分だけ

 流したの」


「明日も、

 ちゃんと来る」


使いは

少し考え、

言った。


「……それなら、

 うちも

 少し調整する」


その言葉に、

場の空気が

わずかに緩んだ。



◆予想外の反応


午後、

別の方向から

もう一つの声が届く。


「……急ぎの分、

 足りない」


今度は、

商い寄りの要望だ。


集落の若者が

焦った顔をする。


「やっぱり、

 戻す?」


女は

すぐには答えない。


アリアは

初めて口を開いた。


「……今日は、

 戻さないで

 ください」


若者が

不安げに見る。



◆整えるという選択


アリアは

落ち着いた声で続けた。


「ここで戻すと、

 “急げば何とかなる”

 が残ります」


「それは、

 次の無理を

 呼びます」


女が

深くうなずいた。


「……整える日は、

 整えきる」


それは、

新しい基準だった。



◆揺れる現場


夕方、

一部で不満が出た。


「今日だけでも、

 増やせないか?」


「一日くらい、

 大丈夫だろう?」


その声は、

悪意ではない。


不安だ。


ルナが

地面に手を当て、

小さく言う。


「……大地……

 今……

 戻ってる途中……」


それは、

途中で止めると

意味がなくなる

段階だった。



◆言葉が変わる瞬間


夜、

作業が終わったあと。


誰かが

ぽつりと漏らした。


「……今日は、

 整えた日やな」


その言葉に、

他の者が

うなずく。


「止めた、

 とは違うな」


「……息、

 できたし」


言葉が変わると、

意味も変わる。



◆隣村の返事


夜遅く、

使いが

もう一度戻ってきた。


「……向こうも、

 今日は

 少なめで回した」


責めはない。


むしろ、

報告だった。


女が

少し驚く。


「……うちだけ

 じゃなかったのね」


それは、

波紋が

広がり始めた証だった。



◆風の通り道


風は、

集落の上を

ゆっくり通った。


煽らない。

介入しない。


だが、

整った流れを

なぞるように進む。


ルナが

微笑む。


「……風……

 邪魔してない……」



◆戻る準備


アリアは

空を見上げる。


(……ここは、

 自分たちだけの

 場所じゃなくなった)


整えるという考えが、

根を張り始めている。


なら、

そろそろ

戻る準備だ。


ルナが

小さく言った。


「……また……

 戻れる……」



無理を止めるのではなく、

流れを整える。


その考え方は、

静かに

隣へ、

また隣へと

渡り始めていた。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ