霜の国編・帰還! 魔王城で待つ“予想外の依頼”
霜の国からの帰路は順調だった。
吹雪もなく、荷馬車も揺れも少なく、まかない部は心地よい疲れの中にあった。
「……やっぱり、うちの厨房に帰れるってのは嬉しいもんやな」
「椅子が硬くても、レンジ魔導炉が気まぐれでもな!」
「ただいまー!」
しかし――
厨房の扉を開けた瞬間、全員の動きが止まった。
そこには、
見知らぬ冒険者たちがずらっと並び、鍋や包丁を握っている光景が広がっていた。
「……あんたら、誰?」
奥から出てきたのは、留守番のクラーラ(魔王城の事務官)。
「おかえりなさい! あの……急な依頼があって……」
話によると――
隣国の冒険者ギルドが、魔王城の厨房を借りたいと申し出たらしい。
理由は「大規模討伐作戦のための食糧準備」。
しかし、その人数は数百人規模。
しかも、全員が“その場で食べて士気を上げる”形式を希望。
「つまり……討伐隊の士気を上げる“勝負まかない”ってことか」
「でもなんで魔王城? 隣国にも厨房あるやろ」
クラーラが苦い顔をする。
「……隣国のギルドマスター曰く、“ここで作った料理が一番効く”そうです。
しかも……これ、正式な“冒険者連合依頼”です」
魔王様はしばらく黙ってから、にやりと笑った。
「……面白いじゃない。
うちの厨房が、国境を越えて使われるなんて」
だが、問題は山積みだった。
•調理時間は丸一日だけ
•食材はギルドが持ち込むが、種類も品質もバラバラ
•調理スタッフは冒険者混成(料理経験ゼロ多数)
ソラは腕を組み、全員を見渡した。
「よし。じゃあ明日一日で、士気をぶち上げる一皿を作ろう。
ただし――厨房のルールは、魔王城まかない部が決める」
ルナが手を挙げる。
「じゃあまず、“鍋振り暴発”と“塩撒き魔法”は禁止からね」
「なんで禁止にするんですか!? 僕の必殺技なのに!」
「必殺技で鍋爆発させるな!!」
こうして、ギルド×まかない部の合同調理作戦が始まるのだった。




